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示談書後の追加請求は違法?民法上の判断基準を解説

  • 執筆者の写真: 代表行政書士 堤
    代表行政書士 堤
  • 3 日前
  • 読了時間: 57分

🌺こんにちは!おてがる契約書の代表行政書士 堤です。

本日は示談書についての重要なポイントを解説したコラム記事をお届けします。


示談書を交わした後、「本当に追加請求はできないのか」「後から請求されたらどうしよう」と不安に思ったことはありませんか?本コラムでは、示談書後の追加請求が民法上どのように扱われるのか、裁判例や実務の視点を交えてわかりやすく解説します。これから示談を検討する方や、すでに示談書を交わした方にも役立つ内容です。



  本記事のまとめ:

重要事項

概要

示談書は民法上の和解契約にあたり、清算条項や宥恕条項によって紛争の最終的解決が図られるため、原則として後からの追加請求は認められません。

後遺障害などの予測不能な損害や、公序良俗に反する示談、錯誤・詐欺・脅迫があった場合などは例外として追加請求が認められることがあります。

条項設計や損害の想定、清算条項の文言を正確に理解することで、示談後の追加請求トラブルや後悔を大きく減らせます。

🌻示談書後のトラブルは、ちょっとした条項の書き方や予測の甘さで大きな問題に発展することがあります。このコラムを読むことで、「請求できるケース」「請求できないケース」「リスクを避けるための実務的ポイント」が理解でき、後悔の少ない示談交渉が可能になります。示談書に関わるすべての方にぜひ読んでいただきたい内容です。


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▼目次



~事例・比較分析紹介~



~番外編~




  1.示談書成立後に追加請求はできるのか【結論と全体像】


示談書は、トラブル解決のために当事者同士が合意した内容を書面化したものです。ですが、示談書を交わしたあとに「やっぱり追加でお金を請求できるのか?」という疑問を持つ方は多くいます。ここでは、その疑問に法律の観点から分かりやすく解説します。



Q. 示談成立後に追加請求はできますか?

結論から言うと、原則として示談成立後の追加請求はできません。示談書には「これで一切の金銭や損害の請求は終わり」と明記されることが多く、これを「清算条項」と呼びます。清算条項がある場合、当事者は原則として追加の請求権を失います。

例えて言うなら、示談書は「和解契約の完成品」です。完成したパズルを、後から「ここにもう1ピース追加したい」と言っても、ルール上は認められない、というイメージです。


A. 原則として示談成立後の追加請求はできない

示談書が成立した段階で、法律上の権利や義務の大部分は解消されます。示談書に「金銭の受領をもって完全解決とする」と記載がある場合、受け取った側は追加請求を拒否する正当な理由を持ちます。

  • ポイント:示談書を交わした段階で、原則として請求権は消滅する

  • 例外:示談書に記載されていない損害や、後から判明した隠れた損害は、一定条件下で請求可能な場合があります(後述)



「違法」と評価されるのはどのような場合か

示談書後に追加請求を行うと、法律的には契約違反や不当要求として違法と判断されることがあります。具体的には以下のようなケースです。

ケース

違法性の理由

補足説明

示談書に完全清算条項があるのに再度請求

契約違反

当事者同士で合意した条件を無視する行為

脅迫や威圧で追加請求

不法行為

「払わなければ訴える」と強要する行為

嘘や隠ぺいで追加請求

詐欺行為

示談時に重要事項を隠していた場合

例えば、不倫慰謝料で「50万円で完全解決」と示談書に書いてある場合、後から「やっぱり30万円追加してほしい」と請求するのは原則違法です。ただし、示談書作成時には把握できなかった重大な損害が後で判明した場合は、例外として請求できることがあります。



交通事故・不倫・金銭トラブルなど分野共通の考え方

示談書後の追加請求に関する考え方は、トラブルの種類を問わず基本的に共通です。

  • 交通事故治療費や休業損害を含めて示談書で合意した場合、追加請求は原則不可。ただし、後から後遺障害が判明した場合などは例外として請求可能。

  • 不倫・慰謝料慰謝料を示談書で受け取った場合、同じ不倫行為について再度請求することはできません。ただし、示談時に把握できなかった新たな損害や精神的苦痛が生じた場合は別途請求の余地があります。

  • 金銭トラブル(貸金・借金など)「全額返済済み」と示談書に書かれている場合、後から追加請求するのは契約違反です。ただし、利息計算が誤っていた場合などは請求可能なケースがあります。


ポイント:トラブルの種類によって例外の扱いは異なりますが、基本ルールとしては「示談書成立後の追加請求は原則不可」と覚えておくと安心です。



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  2.示談書の法的性質と「追加請求不可」とされる理由


示談書は、法律の上で単なる「書面」ではなく、当事者間の権利義務関係を整理する正式な契約です。ここでは、示談書が持つ法的性質や、なぜ追加請求が原則認められないのかを詳しく説明します。



示談書は民法上の「和解契約」

示談書は法律上、「和解契約(民法第723条~725条)」として扱われます。

  • 和解契約とは?当事者が争いごとについて合意し、互いの請求権や義務を調整する契約のことです。裁判をせずに解決するための手段として広く使われます。

例えると、示談書は「争いごとの終着駅」です。出発地点はトラブルや請求権ですが、示談書という和解契約を結ぶことで、両者が降りる駅が決まり、以後は別の路線(追加請求)に移ることが原則できなくなります。



和解契約が強い拘束力を持つ理由

和解契約は、単なる話し合いや口約束とは異なり、法律上の強い拘束力があります。

  • 一度合意した内容は、基本的に当事者双方に従う義務があります。

  • もし一方が合意に反して行動すると、「契約違反」として裁判で争われる可能性があります。

これは、社会的に「紛争を早く終わらせ、再発を防ぐ」ために重要なルールです。もし示談後に何度も追加請求が許されると、トラブルが際限なく続き、和解の意味がなくなってしまいます。



紛争の最終的解決としての意味

示談書は単にお金のやり取りだけでなく、紛争を最終的に整理する役割を持ちます。

  • 交通事故では治療費や慰謝料の支払いを一括で解決

  • 不倫や金銭トラブルでは慰謝料や貸金返済を明確化

このように、示談書は「これで問題は終わり」という社会的・法的効果を持ちます。

紛争の種類

示談書の役割

追加請求が原則認められない理由

交通事故

治療費・休業損害を含めて金銭的清算

清算条項で完全解決が明示される

不倫・慰謝料

慰謝料支払いによる精神的損害の解消

同じ損害について再度請求不可

金銭トラブル

借金返済の終了・利息整理

契約違反として無効扱いになる



「やり直し不可」が原則とされる背景

示談書後に追加請求が認められない理由は、主に次の3点に集約されます。

  1. 権利の安定性一度合意した内容が変わると、当事者は常に不安定な立場に置かれます。

  2. 紛争の終結何度も請求される可能性があると、和解契約の意義が失われます。

  3. 社会的信頼「示談書を交わしたら安心」という社会的信頼を守るため、やり直しは原則認めないのです。


例えるなら、示談書は「完成した建物の鍵」です。一度鍵を受け取ったら、その建物を使って良い範囲は決まっており、勝手に追加工事(追加請求)を要求することは認められない、というイメージです。



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  3.【原則】示談書後の追加請求が認められない民法上の根拠


示談書後に追加請求が原則認められないのは、単なる慣例ではなく、民法上の明確な根拠があります。ここでは、その理由を法律用語と日常の例え話を交えて解説します。



清算条項による権利放棄の効果

多くの示談書には、「本示談書に記載された内容をもって一切の請求権は清算されたものとする」といった条項があります。これを清算条項と呼びます。

  • 清算条項の効果清算条項がある場合、当事者は示談書に含まれる損害や請求権について、今後請求しないことを合意したとみなされます。つまり、追加請求権は原則として放棄されるのです。


例えると、示談書は「購入契約のレシート」です。一度お金を払ってレシートを受け取ったら、後から「やっぱりもう一回払って」と言えないのと同じイメージです。

条項の種類

効果

清算条項

示談後の追加請求権を放棄。契約として強制力あり

一部清算条項

特定の損害だけ清算され、他の損害は請求可能



信義則(民法1条)との関係

民法第1条には、法律行為を行う際の信義則(しんぎそく)=誠実に行動する義務が定められています。示談書の追加請求が原則認められないのも、この信義則と深く関わっています。

  • 意味の整理一度合意して受領した示談金を、後から「やっぱり追加でほしい」と請求する行為は、相手方の信頼を裏切ることになります。これにより、信義則に反する不当な請求として、裁判所でも認められにくいのです。

例えると、友人に「借金はこれで清算ね」と言われて了承したのに、後日「やっぱり追加で返せ」と言うのは、約束を破る行為で不信感を招くのと同じです。



紛争蒸し返し防止の法的要請

示談書は紛争解決の最終手段です。もし追加請求が自由に認められると、トラブルはいつまでも解決せず、社会的にも不安定になります。

  • 法律は、紛争を安定的に終結させることを重視します。

  • 清算条項や信義則は、この目的を達成するための法的手段と言えます。

簡単に言うと、「一度合意したらお互いに手を離すルール」を作ることで、紛争を蒸し返さない仕組みが民法上も支えられているわけです。



裁判所が「追加請求不可」と判断する典型パターン

実務上、裁判所が追加請求を認めないケースは典型的に以下のような場合です。

ケース

裁判所の判断理由

補足

示談書に「本件をもって全て清算」と明記されている

清算条項による権利放棄が有効

明確に記載されていればほぼ認められない

示談金受領後、同じ損害について再請求

信義則違反

同じトラブルを蒸し返す行為として不当

示談時に把握可能だった損害を隠して請求

詐欺的請求として違法

裁判所は不正行為と判断


具体例:交通事故で治療費50万円を示談書で受領した後、「やっぱり10万円追加で払って」と請求した場合、裁判所は原則として認めません。示談書に「全て清算」と書かれているため、請求権は消滅していると判断されるからです。



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  4.【例外】示談書後でも追加請求が認められるケース


前章で解説した通り、示談書後の追加請求は原則認められません。しかし、一定の条件下では例外的に追加請求が有効と判断されることがあります。ここでは、その代表的なケースを詳しく解説します。



例外が認められる基本的な考え方

追加請求が認められるかどうかは、次の2点で判断されます。

  1. 予測できなかった事情が発生したか

  2. 示談が公正・合法的に成立していたか

言い換えると、「示談時に想定できなかった損害が発生した場合」や「示談自体に瑕疵(不正や錯誤)があった場合」には、追加請求が例外的に認められる可能性があります。



「違法」ではなく「有効」と判断される場合とは

予測できなかった後遺障害・損害が発覚した場合

交通事故や医療過誤などでは、示談時には把握できなかった損害や後遺障害が後で判明することがあります。この場合、追加請求が認められることがあります。

  • ポイント示談時に損害を正確に見積もることが不可能だった場合は、清算条項があっても追加請求は無効とはならないことがあります。

  • 最高裁の判断基準裁判所は「当時の状況で予測可能だったかどうか」を重視します。例:

    • 治療中に隠れた後遺障害が発覚 → 追加請求可能

    • 示談時に予測できた軽微な損害 → 追加請求不可

  • 清算条項があっても請求が認められる理由「契約時に知らなかった重大な損害」が後で発覚した場合、権利放棄の効果が及ばないと解釈されるためです。


公序良俗に反する示談だった場合

示談書が著しく不当な条件や方法で成立していた場合、追加請求が認められることがあります。

  • 公序良俗違反の具体例

    • 支払い金額が極端に低く、当事者の自由意思が制限されていた

    • 脅迫や不当圧力で示談が成立した場合

  • 裁判例の傾向裁判所は、契約内容が社会通念上著しく不合理である場合、公序良俗に反すると判断し、追加請求や契約無効を認める傾向があります。


錯誤(勘違い)があった場合

民法上、**錯誤(誤認)**があった場合には示談を取り消すことが可能です。

  • 錯誤取消しの要件

    • 契約の内容について重大な誤解があったこと

    • 相手方にその誤認があったことを利用する意図がないこと

  • 具体例示談書作成時に、治療費の一部を誤って低く計算していた場合、錯誤を理由に追加請求が可能になることがあります。


詐欺・脅迫による示談だった場合

示談が詐欺や脅迫によって成立した場合も、追加請求や示談の取り消しが認められます。

  • 認められる基準

    • 強迫(脅し)や詐欺によって示談書に署名した

    • 本人の自由意思が著しく制約されていた

  • 具体例

    • 「払わなければ刑事告訴する」と脅されて示談書に署名した場合

    • 事実を偽って示談金額を少なくして署名させた場合

裁判所は、こうした場合は「示談書自体が無効または取り消し可能」と判断します。


心裡留保・真意でない合意だった場合

心裡留保とは、表向きの意思表示と本人の内心の意思が食い違う場合を指します。

  • 成立自体が否定される可能性

    • 表向きは同意して署名したが、内心では合意する意思がなかった場合

    • この場合、示談書の効力が認められず、追加請求も可能になる場合があります。

  • 具体例示談書に署名したが、内容を理解しておらず、重大な誤認や不正誘導によって署名した場合。



まとめ:例外的に追加請求が認められるケース

例外ケース

条件・ポイント

補足

後遺障害・損害発覚

示談時に予測不可能だった

清算条項があっても請求可

公序良俗違反

著しく不当な条件・方法で成立

社会通念上不合理な場合

錯誤

重大な誤認があった場合

契約取り消しの対象

詐欺・脅迫

強迫・詐欺により合意

示談無効や取消し可能

心裡留保

表意と真意が食い違う場合

合意自体が否定される可能性


このように、示談書後の追加請求は原則できませんが、予測不可能な損害や示談の成立に瑕疵がある場合には例外的に認められることがあります。



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  5.裁判例から見る「追加請求が認められた/否定された分かれ目」


示談書後の追加請求が認められるかどうかは、裁判所の判断によって分かれることがあります。実際の裁判例を見ると、どのような条件で認められ、どのような場合に否定されるかが具体的に理解できます。



錯誤を理由に追加請求が認められた裁判例

錯誤(勘違い)が原因で示談を結んだ場合、後から示談を取り消して追加請求が認められることがあります。

  • 裁判例の概要交通事故で治療費の一部を誤って低く計算して示談書を作成。示談成立後、実際には治療費が予想より高額であることが判明。裁判所は、「示談時に双方が重大な計算誤認(錯誤)をしていた」と認定し、追加請求を認めました。

  • ポイント

    • 錯誤は「契約の成立自体に影響する重大な誤認」であること

    • 単なる小さな計算ミスや読み間違いでは認められない

例えると、ケーキの値段を1000円と勘違いして買ったのに、実際は3000円だった場合、重大な誤認として返金交渉が可能、というイメージです。



「別損害」として追加請求が認められた裁判例

示談書で解決した損害とは別の損害であれば、追加請求が認められることがあります。

  • 裁判例の概要交通事故で治療費と慰謝料について示談書を締結した後、事故による後遺障害が判明。裁判所は「示談時には予測できなかった新たな損害」と判断し、追加請求を認めました。

  • ポイント

    • 追加請求できるのは、あくまで示談時に把握不可能だった損害

    • 示談書に含まれている損害については、原則として追加請求不可

分類

認められる条件

追加請求可能

示談時に予測できなかった損害

後遺障害や新たな医療費

追加請求不可

示談書で清算済みの損害

治療費・休業損害など



示談契約の効力が優先され請求が否定された裁判例

一方で、示談書に明確な清算条項があり、当事者が合意の上で署名した場合、追加請求は原則として否定されます。

  • 裁判例の概要不倫慰謝料の示談書で「本件をもって慰謝料は全額支払済み」と記載されていたケース。示談成立後、被害者が追加で慰謝料を請求しましたが、裁判所は「示談書の効力を尊重するべき」と判断し、追加請求を認めませんでした。

  • ポイント

    • 契約書の明確な清算条項があること

    • 当事者双方の自由意思で成立した示談であること

例えると、「レストランで食事代を全額支払った後、後から『やっぱりもう1品分払え』と言っても、レシートに全額支払済みと書かれている場合は認められない」というイメージです。



裁判所が重視するポイントの整理

裁判所が追加請求の可否を判断する際には、次のポイントを重視しています。

判断ポイント

裁判所の考え方

示談書の内容

清算条項があるか、請求権放棄が明確か

損害の性質

示談時に予測できたかどうか、別損害か

当事者の意思

自由意思で署名したか、詐欺や脅迫はなかったか

社会通念

公序良俗に反していないか、著しく不当でないか

  • ポイントまとめ

    • 示談書に明確な清算条項があれば、基本的に追加請求は否定される

    • 予測不可能な損害や錯誤、詐欺・脅迫などの瑕疵があれば、例外的に認められる

    • 裁判所は「契約の安定性」と「当事者間の公平性」を両立させる形で判断する


この章で理解できることは、追加請求の可否は示談書の内容だけでなく、損害の性質や契約成立の経緯、社会通念も含めて総合的に判断されるということです。



  6.「これ以上請求しない」と書いてあっても請求できるのか


示談書にはよく「本件をもって一切請求しない」や「これ以上請求しない」といった文言が含まれます。しかし、このような清算条項があっても、必ずしも追加請求が完全に無効になるわけではありません。ここでは、その理由と実務上のポイントを解説します。



清算条項の基本的な効力

清算条項とは、示談書内で「本示談書に記載された損害・請求権はすべて解決済みとする」と明記する条項のことです。

  • 効果

    • 当事者双方は、示談書に含まれる損害や請求について、原則として追加請求できなくなる

    • 権利関係が安定し、紛争を蒸し返さない効果がある

例えると、清算条項は「トラブルの終着駅」を示す看板のようなものです。この看板があることで、誰も列車(請求権)を乗り越えて再び動かすことはできない、と考えられます。



文言があっても無条件で有効とは限らない理由

ただし、清算条項の文言があっても、無条件で追加請求を完全に封じるわけではありません。理由は以下の通りです。

  1. 予測不可能な損害の存在

    • 示談時には把握できなかった損害や後遺障害が後で発覚した場合

    • この場合、裁判所は「清算条項が及ばない損害」として追加請求を認めることがあります

  2. 示談書自体の瑕疵

    • 錯誤、詐欺、脅迫、心裡留保などがあった場合

    • 清算条項の効力は制限され、請求が認められる可能性があります

  3. 公序良俗違反の可能性

    • 示談金額が極端に不合理であったり、社会通念に反する内容だった場合

    • 清算条項の文言だけで「請求権放棄」を認めることは困難です



条項の書き方次第で結論が分かれる実務

清算条項の効果は条項の文言や書き方次第で大きく変わります。実務では、裁判所が条項の内容を精査して判断します。

条項の書き方

裁判所の判断傾向

コメント

「本示談書に記載された内容については一切請求しない」

原則として効力あり

一般的な清算条項。追加請求は認められにくい

「現時点で判明している損害について請求権を放棄する」

例外的に追加請求可能

将来発覚する損害については効力及ばず

曖昧な文言や条項がない場合

効力不明確

後で裁判になると追加請求が認められる余地あり

  • ポイント

    • 「これ以上請求しない」と書かれていても、文言が不十分だと裁判所が追加請求を認める場合がある

    • 将来発生し得る損害まで完全に放棄させたい場合は、条項の文言を慎重に作る必要があります



まとめ

  • 清算条項は示談書の核心であり、原則として追加請求を封じる効果があります

  • しかし、予測不能な損害や契約瑕疵、公序良俗違反がある場合は例外的に追加請求が認められる

  • 実務上は、条項の書き方によって結論が大きく変わるため、文言の正確さや包括性が重要です


例えると、清算条項は「門番」のようなものです。門番はほとんどの場合、追加請求を阻止しますが、特殊な事情(後遺障害や瑕疵)がある場合は門番も通してしまう、というイメージです。



  7.示談書後の追加請求トラブルを防ぐための実務的対策


示談書後の追加請求は、トラブルに発展しやすいポイントです。裁判例や民法上のルールを理解していても、実務での条項設計や示談のタイミングを誤ると、後から請求されるリスクはゼロにはなりません。ここでは、追加請求を未然に防ぐための具体的な対策を解説します。



症状固定後に示談する重要性

交通事故や医療過誤の示談では、症状固定のタイミングが非常に重要です。

  • 症状固定とは?医学的にこれ以上症状が改善しない状態を指します。これを過ぎると、治療費や後遺障害の範囲が確定しやすくなります。

  • 重要性

    • 示談時に将来の治療費や後遺障害のリスクが予測可能になる

    • 「後から追加請求されるかも」という不安を減らせる


例えると、症状固定前に示談すると「霧の中で契約する」ようなもので、将来の損害額が見えないためリスクが高まります。症状固定後に示談することで、霧が晴れた状態で金額を確定できるイメージです。



後遺障害・将来損害に備えた条項設計

示談書では、将来発生する可能性のある損害に対応する条項を設計することが重要です。

  • 具体例

    • 「本示談書は現時点で判明している損害を対象とし、将来発生する可能性のある後遺障害については別途協議する」

    • 「将来の追加請求は認めないが、医療上必要な費用は別途精算する」

  • ポイント

    • あらかじめ将来損害への対応方針を明記しておく

    • 曖昧な条項はトラブルの温床になる



損害項目を分けて示談する方法

損害項目を個別に整理して示談書に記載することで、後から「これは含まれていなかった」といった争いを防げます。

  • 損害項目例

損害項目

記載方法

補足

治療費

現在までの実費・今後の見込額

領収書や診断書を添付

休業損害

日数・単価を明記

計算式も明示

慰謝料

金額・算定根拠を明示

交通事故・不倫等で共通

後遺障害

等級・補償額を明記

将来発生する可能性は別条項

  • メリット

    • 各項目が明確になり、追加請求リスクを抑制

    • 裁判所が条項の範囲を判断しやすくなる

例えると、損害を「バラバラの箱」に分けて整理するイメージです。それぞれの箱の中身が明確になっていれば、「これは払ったのか?」という後からの争いを防ぎやすくなります。



「再交渉可否」を明記する実務対応

追加請求のトラブルを避けるため、再交渉の可否を明記する方法も有効です。

  • 具体的対応例

    • 「将来予測できない損害については別途協議の上、追加請求可」

    • 「本示談書締結後の追加請求は認めない」

  • ポイント

    • 双方の合意で再交渉の範囲を限定できる

    • 「追加請求禁止」と「将来損害対応」のバランスを取る

  • メリット

    • 不明確な条項によるトラブルを未然に防止

    • 将来の不確実性を契約上カバーできる



まとめ:実務的対策のポイント

  1. 症状固定後に示談することで、将来の損害リスクを可視化

  2. 後遺障害・将来損害に備えた条項設計で例外ケースにも対応

  3. 損害項目を分けて明記し、後からの争いを予防

  4. 再交渉可否を明記して、契約の安定性と柔軟性を両立


このように、示談書作成時に条項設計や損害整理を工夫することで、示談後の追加請求トラブルを大幅に減らすことが可能です。



  8.示談書にサインする前に必ず確認すべきチェックポイント


示談書は一度サインすると、原則として内容に従う義務が生じます。そのため、サイン前に必ずチェックすべきポイントを押さえておくことが重要です。ここでは、特に注意すべき項目を詳しく解説します。



清算条項・宥恕条項の意味を理解する

示談書に記載される条項の中で、特に重要なのが清算条項宥恕(ゆうく)条項です。

  • 清算条項

    • 「本示談書に記載された損害については、これで全て解決する」という意味

    • これがあると、原則として追加請求はできません

  • 宥恕条項

    • 「相手方の過失について、将来一切請求しない」という意味

    • 「許す」または「不問にする」というニュアンスで、権利放棄の効果があります

  • チェックポイント

    • 文言を正確に理解しているか

    • どの範囲の損害や請求が含まれるのか明確か


例えると、清算条項は「この箱の中のものはすべて終わり」と示す箱のフタ、宥恕条項は「この箱の中のトラブルは許します」というラベルのようなものです。フタやラベルの意味を理解せずにサインすると、後で取り返しがつかなくなる可能性があります。



将来損害・後遺障害の想定漏れがないか

特に交通事故や医療過誤などでは、将来の損害や後遺障害が想定されているかを必ず確認する必要があります。

  • 具体例

    • 事故後に将来発生するリハビリ費や装具代、後遺障害による逸失利益

    • 示談書にこれらが含まれていない場合、後で追加請求ができる場合があります

  • チェックポイント

    • 現時点で判明している損害がすべて記載されているか

    • 将来損害について別条項で対応する旨が明記されているか


表で整理すると分かりやすいです。

損害の種類

サイン前の確認ポイント

現在の損害

記載漏れがないか領収書や診断書で確認

将来の損害

条項に将来発生可能な損害の扱いが明記されているか



金額だけで判断しない重要性

示談書の内容を判断する際に、提示された金額だけで決めてしまうのは非常に危険です。

  • 理由

    • 金額が高くても、清算条項や宥恕条項で将来の権利放棄をしている場合、追加請求ができなくなる

    • 金額が少なくても、条項の範囲が限定されていれば将来の請求余地がある

  • チェックポイント

    • 金額だけで満足せず、条項の内容と請求範囲を必ず確認

    • 不明確な点は弁護士や専門家に相談

例えると、金額だけで示談を決めるのは「表紙だけ見て本を買う」ようなもの。中身を確認せずに後で後悔するリスクがあります。



口頭説明と書面内容の不一致リスク

示談交渉では、口頭で説明された内容と書面の内容が異なることがあります。

  • 具体例

    • 口頭では「将来の治療費は別途相談」と説明されたが、書面では「一切請求しない」と記載されていた

    • この場合、書面の内容が優先されるため、追加請求できなくなる可能性があります

  • チェックポイント

    • 口頭で説明された内容が、書面に正確に反映されているか

    • 曖昧な点は文言として明記してもらう

例えると、口頭説明は「地図の口頭案内」、書面は「正式な地図」です。口頭案内だけを頼りに進むと、迷子になる可能性があります。



まとめ:サイン前のチェックリスト

  1. 清算条項・宥恕条項の意味を理解しているか

  2. 将来損害・後遺障害の想定漏れがないか確認

  3. 金額だけで判断せず、条項の範囲も確認

  4. 口頭説明と書面内容の不一致がないかチェック


これらを確認して初めて、示談書に安心してサインできる状態になります。特に初めて示談書に署名する方は、専門家にチェックしてもらうことで、後の追加請求トラブルを未然に防ぐことができます。



  9.まとめ|示談書後の追加請求は「原則不可・例外あり」


示談書後の追加請求について、ここまで解説してきた内容を整理すると、結論は**「原則として追加請求は認められないが、例外は存在する」**ということです。最後にポイントをわかりやすくまとめます。



原則として追加請求は違法・認められない

  • 示談書は民法上「和解契約」としての効力を持ちます。

  • 清算条項や宥恕条項により、当事者は示談書で解決した損害について追加請求しないことに合意します。

  • そのため、原則として示談成立後に追加請求を行うことは違法とみなされ、裁判でも認められません


例えると、示談書は「紛争の終着駅」のようなものです。一度到着したら、原則として列車(請求権)はもう動かせません。



民法上の例外に該当すれば請求可能

一方で、以下のような例外的な場合には追加請求が認められることがあります

例外ケース

説明

裁判例の傾向

予測できなかった損害

後遺障害や新たな医療費など、示談時に把握できなかった損害

追加請求が認められる可能性あり

錯誤

示談時に重要な事実や金額について重大な誤認があった場合

錯誤取消しにより請求が可能

詐欺・脅迫

相手の不正行為で誤認してサインした場合

契約無効として追加請求可能

公序良俗違反

著しく不公平な内容や方法で示談が行われた場合

条項の効力が制限される



判断を分けるのは「予測可能性」と「合意の公正さ」

裁判所が追加請求の可否を判断する際、重視するのは主に2つです。

  1. 予測可能性

    • 示談成立時に、損害が予測可能だったか

    • 予測できなかった損害は例外として認められる

  2. 合意の公正さ

    • 当事者双方が自由意思で合意したか

    • 錯誤や詐欺、脅迫があった場合は合意の公正さが損なわれる


表現すると、「将来の損害が見えない霧の中で合意したのか」「双方がフェアに同意したか」が判断の分かれ目です。



示談前の慎重な対応が最大のリスク回避策

  • 示談書作成前に確認すべきこと

    • 清算条項や宥恕条項の内容

    • 将来の損害や後遺障害の想定漏れ

    • 金額だけで判断せず、条項全体を確認

    • 口頭説明と書面内容の不一致リスク

  • 実務的な工夫

    • 損害項目を分けて明記する

    • 将来損害の扱いを条項に明記する

    • 再交渉可否を明記して双方合意で調整する


このように示談前の丁寧な確認と条項設計が、後の追加請求トラブルを防ぐ最も効果的な方法です。



まとめ

  1. 原則:示談書後の追加請求は違法・認められない

  2. 例外:予測不能な損害や錯誤、詐欺、公序良俗違反などでは請求可能

  3. 判断の分かれ目:「予測可能性」と「合意の公正さ」が重要

  4. リスク回避策:示談前の慎重な確認と条項設計でトラブル防止


示談書は「権利関係を安定させる最後の合意」です。サイン前のチェックを怠らず、必要に応じて専門家に相談することで、追加請求トラブルを未然に防ぐことができます。



~事例・比較分析紹介~



  10.裁判例データ分析|示談書後の追加請求は「どの理由」で認められているのか


示談書後の追加請求について、裁判所がどのような理由で認めたケース否定したケースがあるのかを、実際の裁判例や法的解説をもとに整理します。※以下の情報は一般的な判例動向や弁護士解説を基にした分析です。



過去の裁判例を分類してみる

裁判例を大きく分けると、示談後の追加請求が認められたケースと、認められなかったケースに分類できます。以下の表で整理してみましょう。

分類

認められた/否定された

主な判断理由

錯誤

認められた場合あり

示談時の重大な誤認があった

詐欺・強迫

認められた場合あり

不正な条件で合意した

予測不能な後遺障害

認められた場合あり

示談当時予想できない損害が発生

公序良俗違反

認められた場合あり

不当な示談内容で契約無効と判断

清算条項の有効性

否定されることが多い

原則として示談で解決済みと評価



追加請求が認められたケース

以下は、示談後の追加請求が認められた理由ごとの代表的なパターンとその概要です。


錯誤(重大な勘違い)があった場合

錯誤とは、示談成立時に当事者が重大な状況や事実について誤解していたことを指します。この場合、契約(示談)の取り消しや再請求が認められることがあります。


✔ 例:示談時に治療費や損害の全体像が誤認されていたケース弁護士解説では、示談時に損害の一部を勘違いして合意した場合、再度示談交渉が可能なケースがあるとされています。

このような錯誤は、重大な事実誤認であることが要件となります。日常的な小さな勘違いではなく、損害全体に大きな影響を与えるような誤認が必要です。


詐欺・強迫(不正・圧力)による示談だった場合

示談が公平な意思に基づいていない場合、すなわち**相手方にだまされた(詐欺)**り、**脅しや圧力(強迫)**で合意した場合も追加請求や示談取り消しが認められます。


✔ 内容:

  • 相手方が重要な事実を隠して示談させた

  • 示談書にサインさせるために虚偽情報を流した

  • 相手の不安を煽って示談を強行した

この場合は示談そのものが公正ではないと判断され、追加請求権や示談取消権が認められることがあります(民法96条などの詐欺・強迫規定に基づく判断)。


予測不能な後遺障害・損害が発生した場合

示談時に**予測できなかった損害(主に後遺障害など)**が後から出てきた場合、裁判所は追加請求を認めることがあります。


✔ 具体例最高裁判所のある判例では、示談当時に予測できない後遺症が後日発生した場合、その損害についての請求権は示談時の放棄の対象ではないとして、追加請求を認めています。


この判断は、「示談時に全損害を合理的に把握することができなかった」という事情を重視したものです。


公序良俗違反がある場合

示談の内容が著しく不当で社会通念に反する場合、公序良俗違反として示談そのものが無効となるケースがあります。


✔ 具体例(大阪地裁判決)被害者が十分な知識や支援を得られず、極端に不利な条件で示談書にサインさせられた事案では、示談契約自体が無効と判断され、追加請求権が認められています。


この種の判断は、示談後でも「契約内容が社会的信義に反する」と裁判所が判断した場合に出ます。



追加請求が否定されたケース

一方で、示談後に追加請求が否定される判断が出る典型的ケースもあります。


清算条項などの効力が優先されたケース

示談書に明確な**清算条項(=これ以上請求しないという条項)**があり、当事者双方が自由意思で合意している場合、裁判所は追加請求を否定する判断をすることが多いです。


✔ 基本ルール

  • 示談成立時に権利放棄の意思が明確

  • 損害を合理的に算定可能だった

  • 示談書の条項が不当でない


このような場合には、示談書の安定性と信頼性を優先して、追加請求は認められないという結論になります。



どの理由で判断が分かれるのか

裁判所が示談後の追加請求を認めるかどうかを判断する際、特に重視されているポイントは次のように整理できます。

判断基準

認められやすいか(例外)

当時予測可能だったか

否 → 認められる可能性

合意が自由意思か

いいえ → 認められる可能性

示談書の文言

不当・曖昧 → 認められる可能性

損害の性質

初見では把握不能 → 認められる可能性


つまり、**「予測可能性」「合意の公正さ」**が大きな判断基準になっています。


以上が、裁判例データの分析を通じた、示談書後の追加請求が認められた/否定された理由の整理です。判例の多くは、示談書の明確性と正当性を重視しつつ、予測不能な損害や重大な合意の瑕疵がある場合には例外的に追加請求を認めるという方向性を取っています。



  11.清算条項の文言比較研究|追加請求を封じた条文/封じきれなかった条文


示談書に含まれる**清算条項(=示談後の追加請求を封じる条項)**は、その書き方によって実務での効力が大きく変わります。ここでは、公開されている裁判例や実務書式をもとに、有効とされた清算条項例と、形骸化・効力を十分発揮しなかった条項例を比較して解説します。



清算条項とは何か(基礎)

清算条項とは、当事者同士で示談(合意)した内容以外の請求権や債権債務関係について、示談書で「これで全て解決した」ことを相互に確認する条項のことです。示談書にこの条項があると、原則として示談後の追加請求は認められません。



有効とされた清算条項の文言例

以下は、弁護士・法律実務でよく用いられ、実際に示談後の追加請求を封じる効果が高いとされる文言の例です。

例①:包括的な清算条項

甲及び乙は、本示談書に定める内容をもって、
甲と乙との間に存在する一切の債権債務関係は
解消されたものとし、将来にわたり本件に関して
いかなる請求も行わないことを相互に確認する。

特徴と効力

  • 「一切の債権債務」を明示して包括的に清算対象を限定

  • 「将来にわたりいかなる請求も行わない」と未来の請求も否定

  • 文言が明確なため、裁判でも清算の合意として尊重されやすい


例②:対象範囲を明確に限定した清算条項

甲及び乙は、本件事故(事件)に関して
本示談書に記載された事項をもって、これに関する
一切の権利義務関係が清算されたことを確認する。

特徴と効力

  • 清算対象の事故や事件の範囲を限定している

  • ただし、その範囲内については強力に清算される

  • 後で別件の損害や別トラブルが出た場合は請求可能性を残す


こうした文言は、不倫・交通事故・貸金トラブルなど各種示談書でよく用いられ、追加請求を封じる効果が実務でも比較的安定しているとされています。



形骸化した清算条項の文言例

一方、以下のような清算条項は、表面的には条項があるように見えても、示談後の追加請求を完全には封じられない可能性があります。


例①:「清算条項」なのか曖昧な条文

甲および乙は、本件に関して
示談内容以外に争いごとがないことを確認する。

問題点

  • 「示談内容以外に争いごとがない」だけで、債権債務関係まで明示していない

  • 文言が曖昧なため、裁判所で「清算合意とは評価しにくい」と判断されることがあります。例えば、労働審判の清算条項でも、その条文が会社と元従業員との間の債権債務関係を包括するものとは認められなかった判例があります。


例②:「対象の範囲」が不明確な条項

甲及び乙は、本示談書に基づき相互に請求しないことを確認する。

問題点

  • 「相互に請求しない」とだけあると、何について請求しないのかが不明確

  • 将来発生する可能性のある損害や別事案の請求も対象なのか曖昧

  • このような曖昧な文言では、裁判になった際に清算条項の効力が限定的と判断されるおそれがあります。



文言の違いでここが違う

以下の表は、同じ清算条項でも文言の違いで実務効果が変わる点をまとめたものです。

文言の要素

効果の強さ(実務評価)

具体性

「一切の債権債務」まで含めた全面清算

強い

具体的で包括的

「将来にわたり請求しない」明示

強い

将来損害も含む可能性高

「本件に関し」範囲限定付き

中程度

範囲は限定されるが有効

「争いごとがない」など曖昧表現

弱い

解釈の余地が生じる

「請求しない旨を確認」程度の一文

弱い

裁判で否定される可能性



まとめ:条文の書き方で効力は大きく変わる

  • 明確で包括的な清算条項は、示談後の追加請求を実務上しっかり封じる効果が高い。

  • 曖昧・限定的すぎる条項では、裁判所が「清算合意とは評価しにくい」と判断し、結果として追加請求の余地を残すおそれがある。

  • 「どの範囲を清算するのか」「将来損害も含むのか」といった文言の精度が重要であり、条項設計に専門的な注意が必要です。



  12.「予測可能性」の判断基準はどこにあるのか|最高裁・下級審の線引き分析


示談書後の追加請求をめぐる争いで、もっとも重要な判断基準のひとつが**「予測可能性」です。すなわち、示談成立時にその損害を合理的に予測できたかどうか**が、裁判所での結論を分けるポイントになっています。ここでは、過去の裁判例を抽出しながら、裁判所がどこまでを「予測できた」と判断し、どこからを「予測不能」と判断したかを整理していきます。



後遺障害・将来損害を理由とする追加請求事案の典型例

示談後に発覚した損害として多いのが、交通事故の後遺障害や将来発生する損害(例:再手術、後遺症による逸失利益など)です。こうしたケースでは、示談書に「将来の請求を行わない」という条項があっても、追加請求が認められる可能性があります。

  • 代表的な最高裁判決としては、昭和43年(1968年)3月15日判決があり、示談時に予測できなかった後遺障害が発生した場合には追加請求が認められると判断されています。



裁判所が何をもって「予測できた」と判断したか

裁判所が「予測可能」と判断するケースは、以下のような状況が想定されます。

  • 示談時点で、医学的にも通常予測できる後遺症や損害が既に明らかになっている

  • 治療経過や症状が示談時にある程度確定していて、損害の範囲が合理的に推定可能である


このような場合、裁判所は「示談で放棄された損害賠償請求権は全体に及ぶ」と評価する傾向があります。実務でも、示談書に清算条項(将来の請求をしない旨の条項)が明確に記載されている場合、示談成立後の追加請求は肯定されにくいという傾向があるため、予測可能性の判断は非常に重要です。



裁判所がどこから「予測不能」と判断したか

一方で、裁判所が「予測不能」と判断するのは、以下のようなケースです。

  • 示談時に医学的に把握できなかった新たな障害が後日明らかになった

  • 示談成立時点では再手術の必要性や後遺障害の程度が不明であった

  • 損害の範囲が全体として把握困難な状況で示談した


昭和43年3月15日の最高裁判決では、事故後間もない段階で示談が成立し、その時点では全損害を正確に把握することが困難だったこと自体を判断要素としました。つまり、示談時点で後遺障害等の損害が合理的に予測できなかったと認められる場合は、示談書の清算条項がその損害にまで及ばないとして、追加請求が認められています。



予測可能性の判断に影響する要素

裁判所は個別事件ごとに様々な事情を勘案しながら、「予測できたかどうか」を判断しますが、主に以下のような点が重視されます。

判断要素

「予測可能」と評価されやすいケース

「予測不能」と判断されやすいケース

症状の確定度

症状が安定しており、後遺障害がほぼ確定している

症状が不安定で、後遺障害の可能性が不明確

医学的知識

示談時の医学的判断で損害が推定可能

示談時点では損害全体が医学的に判断できない

示談タイミング

全損害がほぼ確定している時点で示談

治療途中・経過不明の段階で示談

損害の性質

将来損害が発生しても明らかに予見可能

将来損害が全く予測できない

このように、示談時点でどこまで損害が見えていたかが、予測可能性を判断する基準になります。



予測可能性の実務的な考え方

  • 示談前に請求できる損害をできるだけ確定させること:症状固定後や後遺障害等級が確定した後に示談を行うと、後から「予測不能」とされる余地を減らせます。

  • 将来損害については留保条項などを設けること:後遺障害の程度や変動があり得る場合は、示談時に「後遺障害が確定したときには追加請求できる」といった取り決めを明記することで、後からの争いを回避します。



まとめ:予測可能性の線引き分析

裁判所が「予測可能性」を判断する際に重視するのは、示談時点で損害全体が合理的に把握できていたかどうかという点です。具体的には、医療状況の確定度や知識の有無、示談のタイミングなどが判断材料になります。一方で、将来発生する損害や後遺障害が当時の状況では合理的に予測できなかった場合には、例外的に追加請求が認められる可能性があります。

このように、予測可能性の有無が示談後の追加請求の可否を分ける重要な基準であることを押さえておくことが大切です。



  13.「違法な追加請求」と判断されたケースの共通点分析


示談書後に追加請求をした結果、その請求が**「違法」と評価された事例**には、共通する特徴があります。ただ単に追加の金銭を請求するだけではなく、法律上のルールや契約・信義則に反する振る舞いがある場合に、裁判所は違法と判断することがあります。ここでは、その典型例を整理し、どのような請求態様が違法と評価されやすいかをわかりやすく解説します。



追加請求が違法と評価される背景

法律や裁判実務の基礎として、当事者が契約(ここでは示談書)によって合意した内容は尊重されるべきとされます。これに反して無理に追加請求を行う行為は、場合によっては権利の濫用信義則違反、さらに場合によっては**不法行為(恐喝行為等)**として扱われ、違法と評価されることがあります。



権利濫用として違法とされたケース

権利濫用とは、法律上の権利を持っていても、それを「社会通念上不当と評価される方法・目的」で行うことです。民法の基本原則である信義誠実にも関わり、契約後に追加で請求する権利を行使すること自体が不当と判断されると、権利濫用として否定されます。

  • 判例の共通点

    • 明確な清算条項がある示談書にもかかわらず、過度なタイミングで追加請求をした

    • 示談成立から長期間が経過し、相手方に「もう請求されない」と認識させた後に追加請求を行った

    • 欠陥のない合意(合理性のある示談)を壊すような請求が行われた


このようなケースでは、単に法的権利があるからといって「請求すればよい」というものではなく、権利行使の仕方やタイミングが不当だと評価されると違法とされる可能性があります。



信義則違反として違法とされたケース

民法1条には「信義則(信義誠実の原則)」が定められており、これは当事者同士が互いに誠実に行動する義務です。権利行使が信義則に反すると裁判所が判断する場合、その行使自体が効果を有しなくなることもあります。



信義則違反になりやすいケース

  • 示談後に相手の事情を無視して強引に追加請求を行った

  • 示談書の意味や合意の背景を覆すような請求をした

  • 長期間の放置後に突然追加請求をした(相手に誠実に振る舞う意図が見られないと判断)

信義則違反と評価されると、多くの場合追加請求が押しとどめられたり、契約の合理性が否定されたりします。これは、当事者間の信頼関係を損ねる行為や、合意の趣旨を著しく損なう行為が含まれる場合です。



不法行為(恐喝等)として違法と評価されたケース

場合によっては、追加請求の方法そのものが単なる民事上の請求権行使ではなく、不法行為や刑事的な違法行為として評価されることもあります。最も多い例は「恐喝」や「脅迫」など、金銭の要求手段に暴力や脅しが含まれる場合です。



不法行為として扱われる請求例

行為の種類

具体例

法的評価

恐喝

支払を拒む相手に「支払わなければ危害を加える」と告げる

恐喝罪(刑法)や不法行為として違法

脅迫

支払いを約束させるために相手の名誉・身体を脅す言動

脅迫罪・不法行為

ポイントこのような行為は、追加請求権そのものがあるかどうかとは別に、請求方法が違法と評価される典型例です。適法な請求であっても、手段が不正であればその請求は違法行為として処理される可能性が高くなります。



違法とされる請求態様の類型

以下の表は、実務で違法と評価されやすい請求パターンの類型です。

類型

内容

違法性の理由

権利濫用

長期放置後の突然の追加請求など

社会通念上不当

信義則違反

合意の趣旨を破壊する請求

誠実性の欠如

不法行為

脅迫・恐喝を伴う請求

刑法・民法上違法

曖昧な請求

条項無視の強引な要求

契約の合理性を欠く



まとめ:違法と判断される共通点

合意の趣旨を覆す請求 示談の趣旨を無視して追加請求する行為は、権利濫用や信義則違反とされる可能性が高い。

誠実性を欠く行為 当事者として正当な合意後に不当に請求する行為は、信義則に反すると評価される。

暴力的・脅迫的な請求手段 金銭を得るために不当な発言や行動が含まれる場合は、刑事・民事の両面で違法と扱われる。


示談後の請求は単なる民事の主張ではなく、契約と社会通念に照らした公正さが問われる行為です。そのため、追加請求を行う際は、請求の内容だけでなく手段や動機にも注意が必要です。



  14.分野別比較調査|交通事故・不倫・金銭トラブルで判断は変わるのか


示談書後の追加請求についての民法上の原則は共通していますが、トラブルの分野(交通事故・不倫・金銭トラブルなど)によって実務上の判断や裁判所の姿勢に違いが出ることがあります。ここでは、各分野ごとに「追加請求が認められやすい理由」と「否定されやすい理由」を整理し、比較します。



交通事故の場合:損害の「全体像が見えるか」が重要

交通事故では、治療費・休業損害・慰謝料など様々な損害があります。示談はこれらの損害について合意したものとして成立することが多いですが、将来発生する損害や後遺障害が確定していない段階で示談すると、後で追加請求につながる可能性が残ります


追加請求が認められやすい理由

  • 後遺障害が後から発覚した場合事故直後よりも治療が進んで初めて症状が固定し、重い後遺障害が明らかになるケースがあります。このように示談時には予測できなかった損害は、追加請求として認められる可能性があります。

  • 医学的に予測不能だった損害示談成立時には症状が安定しておらず、損害の全体像が合理的に把握できなかった場合です。


追加請求が否定されやすい理由

  • 症状が固定していて損害が明確な場合示談当時に損害が確定しており、後から追加が生じないと合理的に見える場合には、清算条項が強く評価されます。

  • 清算条項が明確な場合示談書に「これで全て解決する」という文言が明確であれば、原則として追加請求は否定されます。


まとめ表

交通事故の特徴

追加請求が認められる要素

否定されやすい要素

損害評価の難易度

後遺障害など予測不能な損害

明確な損害と合意

示談時期

症状固定前の示談リスク高

症状固定後の示談が望ましい



不倫(不貞)トラブルの場合:事実関係と条項内容が焦点

不倫に関する示談書は、通常は慰謝料と今後の関係性(接触禁止・関係解消)について合意したものです。一般論としては、不倫についても一度合意した示談内容の追認・追加請求は原則認められません


追加請求が認められやすい理由

  • 新たな不貞行為が発生した場合追加請求が認められる典型例として、示談後に再度不倫関係があった場合が挙げられます。これは示談で合意した範囲外の新たな行為であり、新たな損害と評価されやすいからです。

  • 示談書の条項違反示談書に接触禁止条項や再発防止条項が含まれ、その違反があった場合には違約金や損害賠償が請求できることがあります。


追加請求が否定されやすい理由

  • 示談した不貞行為の同一範囲について再請求する場合示談成立後に「やはり慰謝料を追加してほしい」という一般的な請求は原則として認められません。これも清算条項があるためです。

  • 金額不満だけの主張慰謝料の金額が相場より低いといった理由のみでは、追加請求は否定されやすいです。


まとめ表

不倫トラブルの特徴

認められやすい追加請求

否定されやすい追加請求

継続・再発

新たな不貞行為による請求

同一事案の金額不満

条項違反

接触禁止などの違反

清算条項の一般請求



金銭トラブル(貸金・返済等)の場合:債権関係の明確性

金銭トラブル分野では、示談書ではなく債務の整理契約や示談合意書が用いられることが多く、返済スケジュール・金額・利息などが条項化されます。この分野でも示談後の追加請求には厳格な判断がなされます。


追加請求が認められやすい理由

  • 示談書に含まれていない債務が新たに判明した場合当初の債務合意の前提に重大な漏れがあったときは例外的に追加請求が議論されることがあります。

  • 債務の性質や契約内容の重大な誤認(錯誤)原契約や示談合意で重大な誤りがあったと認められる場合には、追加請求または契約取り消しが検討されます。


追加請求が否定されやすい理由

  • 明確な返済条項がある場合完全清算の文言がある場合は、示談後の追加請求は否定されます。

  • 示談書自体に債務の全面整理が明確なとき債務整理契約で「これ以上の請求はない」と明示的に合意している場合は追加請求は原則不可になります。



民法理論は共通でも裁判所の姿勢に違いが出る理由

民法上、示談書は和解契約として契約の拘束力が強いことが原則であり、追加請求は基本的に否定されます。しかし、各分野の「社会的文脈」や「紛争の性質」によって、裁判所が重視する判断材料に違いが出ます。

  • 交通事故分野では、医学的予測可能性や損害の固定度が焦点になります。

  • 不倫トラブル分野では、示談後の行為(再発・条項違反)を別事案として評価する傾向があります。

  • 金銭トラブル分野では、債権関係の明確性や契約前提の誤認が検討されます。


これらの違いは、示談書という一つの法的枠組みを各分野の実情に即して運用する裁判所の柔軟性を反映しています。



  15.示談書が「無効・取消し」された理由ランキング


示談書は当事者同士の合意として原則有効ですが、事情によっては示談書自体の効力が否定される(無効・取消し)ことがあります。裁判例や法律実務では、いくつかの共通した理由で示談書の効力が否定されています。ここでは、その原因をランキング形式で詳しく整理し、具体的な判断基準やイメージも含めて解説します。



ランキング|示談書の無効・取消し理由トップ5

以下は、示談書が無効または取消しとされた主な理由を、発生頻度や重要度を基準にしたランキング表です。

順位

理由

法的根拠

内容のポイント

1

錯誤(重大な勘違い)

民法95条

本当は理解していなかった場合

2

詐欺

民法96条

騙されて合意した場合

3

強迫(脅迫)

民法96条

脅されて仕方なく合意した場合

4

公序良俗違反

民法90条

社会通念に反する内容

5

心裡留保・虚偽表示

民法93条・94条

表示と真意が異なる合意



第1位:錯誤(重大な勘違い)があった場合

錯誤(さくご)とは、示談成立時に当事者が重要な事実を勘違いして合意してしまった場合を指します。民法95条によって、重大な誤認に基づく合意は取消しが可能です。

  • 例えば、示談書に記載された金額を勘違いして押印した場合。本当は10万円のはずが100万円だった、というようなケースは錯誤に当たる可能性があります。

  • 交通事故でも、損害項目の重大な誤認があった場合に錯誤取消しが認められる例があります。


ポイント錯誤が認められるためには、・当該誤認が示談の「目的」部分に関わる重要なものであること・当事者が自らの誤認を正せた可能性が低いことが必要です。



第2位:詐欺があった場合

詐欺による取消しは、民法96条によって認められています。相手方の欺瞞的な説明や偽りの情報によって示談書にサインした場合です。

具体的には、

  • 不倫示談で「あなたには慰謝料を請求できる本当の事情がある」と偽って知らせて合意させたケース

  • 交通事故示談で相手が重要な事実を隠していた場合

といった状況が詐欺に該当する可能性があります。実務上は、詐欺の立証が容易でなくても、重要事実の隠蔽や虚偽説明があった場合に取消しが認められる場合があります。



第3位:強迫(脅迫)があった場合

強迫(きょうはく)とは、相手方からの脅しや圧力によって合意させられた場合をいいます。これも民法96条で取消しが認められます。

  • 「示談に応じなければ職場に不倫の事実をバラす」といった精神的圧力

  • 「示談書にサインしないと家族に危害を加える」というような脅迫行為

などが典型例で、裁判所はこうした状況を強迫と評価し、示談書の合意を無効・取消しとする判決を出しています。



第4位:公序良俗違反(社会通念に反する内容)

示談書の内容が社会的な基本秩序や善良な風俗に反すると判断されると、契約は無効となります(民法90条)。

  • 過度な違約金や高額な制裁金を設定した条項

  • 自由意思を著しく侵害するような制限条項

  • 犯罪・反社会的行為を容認する内容

などは、公序良俗違反として無効と判断されやすいです。特に不倫示談では常識的な額を大きく逸脱した慰謝料や違約金が無効とされた例が報告されています。


例え話

示談書に「1日でも遅れたら1000万円払え」とあると、常識的に社会的秩序を無視した不当な内容と判断される場合があります。



第5位:心裡留保・虚偽表示(真意と異なる合意)

心裡留保とは、表面上の意思表示と心の中の意思が一致していない場合をいいます。民法93条・94条によって、特に相手方も真意と異なることを認識していた場合は無効になります。

  • 本人は冗談で合意したつもりでも、相手がそれを真剣な意思表示と誤認して示談書を書かせた場合

  • 通謀虚偽表示(両者が表向きだけの意思表示をしていた場合)

などが含まれます。


注意点

心裡留保の無効は、一般の契約分野でも認められる概念ですが、示談書のような紛争解決契約でも同様に適用されます。



示談書無効・取消しの共通点

示談書の無効・取消しとして訴えが認められるケースには、共通の特徴があります。

  • 合意が当事者の真の意思に基づいていない→ 錯誤・詐欺・強迫・心裡留保

  • 示談内容が社会通念に反する→ 公序良俗違反

  • 合同合意が合理性を欠く状況で成立している

これらの条件がある場合、裁判所は示談書を「ただの書面」ではなく意思表示としての本質を欠いた契約として評価し、無効・取消しを認めています。



まとめ:無効・取消し理由の優先度

  1. 錯誤 – 合意の前提事実が誤認されている

  2. 詐欺 – 虚偽や重要事実の隠蔽による合意

  3. 強迫 – 脅迫などによる意思表示

  4. 公序良俗違反 – 社会的秩序に反する内容

  5. 心裡留保・虚偽表示 – 真意と合意が一致しない場合


上記のような事情がある場合、示談書は無効扱い、または取消し可能な合意として扱われるため、示談締結前に慎重な確認や専門家の助言を受けることが重要です。



  16.実務家視点調査|示談書トラブルで「最も後悔が多い判断ミス」


示談書後に「請求できない」「請求された」といったトラブルになると、当事者は後悔の大きさを感じやすくなります。実際の相談事例や弁護士による解説記事を分析すると、共通して後悔につながる判断ミスのパターンが浮かび上がってきます。ここでは、実務家の視点から典型的な後悔原因を詳しく整理します。

(注)以降の内容は、一般的な弁護士相談や交通事故・示談解説サイトの情報を元にしています。



後悔パターン① 「請求できない」と後悔するケース

示談後に「本当は請求できたのではないか」と悔やむパターンで最も多いのは、損害やリスクを十分に精査せずに示談してしまったケースです。


①–1 症状固定前に示談してしまった

交通事故では、症状固定前に示談を成立させてしまうと後から症状が悪化したり、将来の損害が顕在化したりするリスクがあります。示談書には「これ以上請求しない」といった条項が含まれることが多く、後の請求が困難になります。

例えると、成長途中で固定化してしまった損害をひとまとめに清算するようなもので、後で「もっと請求できたのでは?」と後悔しやすいのです。


①–2 後遺障害・将来損害を想定しきれなかった

示談時点では後遺障害や将来損害が予測できなかったという理由で、後から請求したいと思っても原則認められません。以下のようなケースがよくあります。

  • 示談成立後に後遺障害等級が認定された

  • 当初は軽い症状と思っていたのに後遺症が残った


これは、示談成立当時に予測可能性を認められなかった損害であっても、示談書に一切の請求禁止条項があると請求が難しくなるというパターンです。



後悔パターン② 「請求された」と後悔するケース

もう一方のケースとして、示談した立場から相手方(加害者側など)に追加請求されたことを後悔するパターンもあります。これは、示談書の内容が曖昧だったり、追加請求可能性を残してしまう書き方になっていた場合に発生します。


②–1 示談書に後日請求の可能性を残してしまった

示談書の文言が「将来の請求を含める」といった曖昧な書き方になっていたり、別途協議の余地を残してしまっていると、「示談後も請求される余地がある」と裁判所に判断されることがあります。

  • 「後遺障害が認定されたら追加請求できる」

  • 「傷害部分と後遺障害部分は別途協議する」

など、条項設計が柔らかい場合、追加請求のトリガーになってしまうことが実務上よく見られる後悔ポイントです。


②–2 条項解釈の争いが発生した

示談書に記載してある条項の解釈が当事者間で異なり、結果として請求が生じるケースもあります。例えば、治療費・慰謝料・休業損害などを明確に区分していない書き方では、相手側が別の損害とみなして請求してくるケースが出ます。

この場合の後悔は、「条項一つで解釈が変わり、追加請求のリスクを自ら生んでしまった」というものです。



後悔パターン③ 意図せずに撤回・再交渉が不可能になった

示談成立後に「示談をやり直したい」と思っても、原則として示談は撤回できません。弁護士の解説でも、示談後のやり直しや追加撤回は原則できないとしています。


③–1 事情変化に対応できない示談書

  • 示談後に予想外の事情(症状悪化など)が起きても

  • 示談書に再交渉や撤回の制度を残していない

と、結果的に「もう一度交渉したかった」という後悔につながることがあります。



判断ミスの共通点

実務家が見る限り、後悔につながる典型的判断ミスには以下のような共通点があります。

後悔タイプ

判断ミスの本質

実務で注意すべきポイント

「請求できない」と後悔

示談内容が不十分・損害想定不足

症状固定後に示談・条項に将来対応を入れる

「請求された」と後悔

条項が曖昧・再交渉余地を残す書き方

清算条項を明確・範囲限定と区分明示

撤回・再交渉不可の後悔

再協議等の条項を盛り込んでいない

将来の不確定要素への対応を明記



まとめ:後悔を防ぐための実務観点

示談書後に後悔しないためには、示談前の条項設計と損害分析が最も重要です。具体的には次の点を確認することが後悔を防ぐ実務的な対応になります。

  • 示談書の清算条項とその範囲を正確に理解しているか

  • 将来損害や後遺障害発生のリスクを条項でどう扱うか

  • 曖昧な文言がないか、解釈争いを避ける明確な記載になっているか


このように、当初の示談交渉段階での慎重な判断と専門家によるチェックが、示談後の追加請求トラブルおよび後悔を大きく減らすことにつながります。



  17.「示談書なし」or「示談書あり」追加請求リスク比較


示談書の有無によって、追加請求や紛争再燃のリスクは大きく変わります。ここでは**「示談書なし」の場合「示談書あり」の場合**を比較し、どのようなリスクが実務上問題となるのかを整理します。



示談書なしの和解事案の特徴とリスク

示談書が存在しない場合、口頭や簡単な合意のみで和解が成立していることがあります。こうしたケースでは、紛争再燃率や裁判移行率が高くなる傾向があります。


①–1 追加請求リスクの高さ

書面がないと、以下のようなリスクがあります。

  • 支払い済みかどうかの証明が難しい

  • 当事者間で「支払った」「支払っていない」の認識が食い違う

  • 過去のやり取りを裁判で証明するのが困難

例えば交通事故で慰謝料を口頭で「一応これで終わり」と合意しても、後から後遺障害が発生した場合、被害者側は「追加請求できる」と主張しやすくなります。


①–2 裁判移行率の上昇

示談書がない場合、当事者間の認識に食い違いが生じやすく、結果として裁判に発展するケースが増えます。裁判所にとっても、口頭での合意内容の証明は困難なため、争いが長引く傾向があります。



示談書ありの和解事案の特徴とリスク

示談書がある場合は、基本的に紛争再燃防止効果が高いとされています。しかし、追加請求リスクが完全になくなるわけではありません。


②–1 紛争再燃率の低下

示談書に清算条項や宥恕条項が含まれている場合、裁判所もその効力を尊重する傾向があります。そのため、示談書があるケースでは、口頭合意のみのケースに比べて、追加請求や裁判化の可能性は大幅に低くなります。


②–2 条項設計による追加請求リスク

ただし、条項の書き方によっては以下のようなケースもあります。

  • 後遺障害や将来損害に関する条項が曖昧

  • 「別途協議」といった再交渉の余地を残してしまった

  • 金額の範囲や損害項目が明確でない

このような場合、示談書があっても追加請求が争点になり得ます。つまり、示談書の有無よりも、条項の具体性と明確さがリスク低減の鍵となります。



示談書あり/なしリスク比較表

比較項目

示談書なし

示談書あり

追加請求リスク

高い

低い(条項次第)

裁判移行率

高い

低い

紛争再燃リスク

高い

低い

証拠性

弱い

強い

条項不備による争点

少ない(口頭だが証明困難)

あり(条項が曖昧だと争点になる)



実務上のポイント

  1. 示談書があるだけでは安心できない→ 条項の内容次第で追加請求リスクが残る

  2. 示談書は書面化することで証拠力を確保→ 証明力が格段に上がり、裁判移行のリスクを減らせる

  3. 条項設計と損害分類がリスク管理の肝→ 後遺障害・将来損害などの想定も含めて条項化する


示談書の有無によるリスク差は非常に大きく、特に口頭合意のみで済ませる場合は、後から「請求できたはず」「請求された」と双方が後悔しやすい点に注意が必要です。条項設計を慎重に行うことが、追加請求トラブル防止の最も実務的な手段となります。


   契約書作成は弁護士・行政書士どっちに依頼すればいい?


契約書を作成する際、「弁護士と行政書士、どちらに依頼すればよいのか?」と悩む方は多いでしょう。どちらの専門家も契約書作成の業務を行いますが、その役割や対応範囲には違いがあります。本記事では、専門家に依頼するメリットや具体例を交えながら、どちらを選ぶべきかを解説します。



専門家に依頼するメリット

1. 契約のリスクを防げる

契約書には、当事者同士の合意内容が明確に記載されます。しかし、素人が作成すると、法律的に不備があったり、トラブルが発生したときに対応しきれなかったりするリスクがあります。専門家に依頼することで、契約の抜け漏れを防ぎ、将来的なトラブルを未然に防ぐことができます。


具体例

たとえば、フリーランスが企業と業務委託契約を結ぶ際、報酬の支払い期限や業務範囲の記載が不明確だと、後々「こんなはずじゃなかった」と揉める原因になります。専門家に依頼すれば、報酬の支払い遅延時のペナルティや、契約解除の条件など、重要な事項を適切に盛り込んだ契約書を作成できます。


2. 自社や個人に適した契約内容にできる

契約書の雛形(テンプレート)はインターネット上にもありますが、それをそのまま使うと、自社のビジネスモデルに合わなかったり、不要な条項が含まれていたりすることがあります。専門家は依頼者の事情をヒアリングし、最適な契約書を作成してくれます。


具体例

例えば、飲食店のオーナーがテナント契約を結ぶ際、一般的な賃貸借契約書だけでは、営業時間の制限や原状回復義務について十分にカバーされていないことがあります。専門家に相談すれば、こうした細かい点も考慮した契約書を作成でき、トラブルを未然に防げます。



行政書士と弁護士の違いは?

契約書作成を依頼できる専門家には、行政書士と弁護士の2種類があります。それぞれの違いを理解することで、自分に適した専門家を選びやすくなります。


行政書士:契約書作成の専門家

行政書士は、主に「契約書の作成」を専門とする国家資格者です。法律に基づいた正確な契約書を作成し、行政手続きや許認可申請にも対応できます。


具体例

・事業者間の業務委託契約書の作成 ・飲食店や美容サロンなどのテナント契約書の作成 ・売買契約書や合意書の作成

ただし、行政書士は「紛争が発生した場合の代理交渉」や「法廷での弁護」は行えません。トラブルが発生した際の対応まではできないため、契約内容に不安がある場合は、弁護士に相談する必要があります。


弁護士:法律トラブルに対応できる専門家

弁護士は、契約書の作成だけでなく、契約に関する紛争対応や訴訟の代理もできる法律の専門家です。トラブルが発生した際のリスクを考慮し、より強固な契約書を作成できます。


具体例

・企業間の買収、合併契約書の作成と交渉 ・高額な不動産売買契約の作成とリーガルチェック ・契約違反が起きた際の法的対応

弁護士に依頼すると、契約書の作成だけでなく、万が一の紛争時にも対応してもらえるというメリットがあります。ただし、弁護士の費用は行政書士より高額になることが一般的です。


専門家に依頼する際の費用と流れ

費用の相場

依頼する専門家や契約書の種類によって、費用は異なります。一般的な相場は以下のとおりです。

専門家

費用の目安

行政書士

契約書作成3万~10万円、リーガルチェック1万~3万

弁護士

契約書作成10万~30万円、紛争対応10万円以上

行政書士は比較的リーズナブルな価格で契約書を作成できますが、紛争対応はできません。一方、弁護士は費用が高めですが、契約のリスク管理を徹底できるというメリットがあります。



依頼の流れ

  1. 専門家を選ぶ:契約内容や将来的なリスクを考慮し、行政書士か弁護士のどちらに依頼するか決める。

  2. 相談・ヒアリング:依頼者の状況を詳しく聞き、契約書の目的や必要な条項を確認する。

  3. 契約書の作成・修正:専門家が契約書を作成し、依頼者と確認しながら修正を加える。

  4. 最終確認・納品:完成した契約書を納品し、必要に応じて公証役場での認証を行う。


具体例

たとえば、フリーランスが業務委託契約を結ぶ際、

  1. 行政書士に相談し、業務範囲や報酬条件をヒアリング。

  2. 契約書のドラフトを作成し、内容を確認。

  3. 必要に応じて修正し、最終版を納品。

  4. 依頼者が契約書に署名し、取引先と締結。

このような流れで進めるため、契約の重要性を理解しながら進めることができます。


まとめ

契約書作成を専門家に依頼することで、契約のリスクを防ぎ、スムーズな取引を実現できます。

  • 行政書士は契約書の作成が得意で、費用を抑えられるが、紛争対応はできない。

  • 弁護士は契約書作成に加えてトラブル対応も可能だが、費用は高め。

契約内容や想定リスクに応じて、適切な専門家を選びましょう。


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