令和7年版|遺産分割で相続同意書が必要なときは?|一律2万円おてがる契約書.com|【テンプレート・ひな形付き】遺産分割協議書との違いまで行政書士が徹底解説‼
- 代表行政書士 堤

- 9月8日
- 読了時間: 95分
🌺こんにちは!おてがる契約書の代表行政書士 堤です。
本日は相続同意書についての重要なポイントを解説したコラム記事をお届けします。相続手続きは家族間での合意形成が重要ですが、初めての方にとっては「どの書類を作ればよいのか」「手続きの順序はどうなるのか」と悩むことも多いでしょう。本コラムでは、相続同意書の基礎知識から作成方法、活用事例まで、初心者の方でもわかりやすく解説します。法律用語や手続きの専門的な内容も、例え話や図解で丁寧に説明していますので、安心して読み進めていただけます。
本記事のまとめ:
重要事項 | 概要 |
|---|---|
家族間で合意を文書化する手段として有効ですが、全ての手続きに代替できるわけではなく、必要に応じて遺産分割協議書が求められることがあります。 | |
相続人の特定、対象財産の明示、署名押印など、必須項目を正しく記載することが重要です。また、後日新たな財産が判明した場合の対応や、署名の自由意思の確認も欠かせません。 | |
財産が複雑な場合や相続人間で意見が対立している場合には、行政書士・司法書士・弁護士・税理士など専門家のサポートを受けることで、無効リスクやトラブルを未然に防ぐことができます。 |
🌻「相続同意書」を正しく理解することは、家族間トラブルの予防や手続きのスムーズ化につながります。本記事を読むことで、相続同意書と遺産分割協議書の違いや、作成時の注意点、専門家への依頼が必要なケースまで幅広く把握できます。これにより、後から「知らなかった…」と後悔するリスクを減らし、安心して相続手続きを進めることが可能です。
また、おてがる契約書では、どんな契約書も一律2万円で作成しています。作成依頼はLINEで簡単に行うことができるため、誰でもてがるに利用することが可能です。弁護士・司法書士が作成する契約書は費用が高額です。おてがる契約書は行政書士が運用しておりオンライン・電話・メールを活用して、簡単・格安でスピードが速く最短で納品が可能です。
▼目次
~事例・比較分析紹介~
~番外編~
1.相続同意書の基礎知識
以下は「相続同意書」について、法的なポイント+実務上の注意点を初心者にも分かるように丁寧に解説したものです。実際の手続きでは金融機関や役所によって求められる書類・扱いが異なることが多いので、最後に「実務チェックリスト」も付けています。まずは基礎からいきましょう。
1-1. 相続同意書とは何か
簡単に言うと:相続同意書は「ある特定の遺産(預貯金・車・許認可など)について、相続人全員がその取り扱いに同意したことを文書にしたもの」です。正式な遺産分割(=すべての財産について誰がどれだけ受け取るかを決める『遺産分割協議』)が終わる前でも、金融機関や手続きを行う機関が「これで手続きを進めてよい」と認めるために求められることがあります。たとえば、葬儀費用や当面の生活費のために預金の一部払戻しをする場面などで使われることが典型例です。
イメージしやすい例(かんたんな物語):お父さん(Aさん)が亡くなり、口座にある預金を葬儀費用に充てたい長男(Bさん)。でも銀行は口座を凍結しているため支払えない。そこで相続人である兄弟姉妹全員が「葬儀費用として〇〇円をBが引き出すことに同意します」と書いた相続同意書を作成し、銀行に提出して一時的に払戻しに応じてもらう――という使われ方をします。
1-2. 遺産分割協議書との違い(ここはよく混乱します)
まず大きな違いを押さえます。
遺産分割協議書:相続人全員で「誰がどの遺産をどのように取得するか」を全面的に決めるための書面。法律上は、成立すると相続開始時に遡って効力を生じる性質があり(つまり取得の関係が最初からそうであったかのように扱われる)、財産関係を確定させる強い効果があります。土地の名義変更や不動産登記など、所有権の変更手続きの根拠として使われます。
相続同意書:「特定の手続き(預金の払戻し、車の名義変更、許認可の承継手続き等)を進めるために、相続人全員がその一部について同意したことを示す書面」。遺産全体を法的に確定するというより、手続き上の便宜(=“この手続きをして良い”という同意)を示す証拠書類として使われることが多い点が異なります。金融機関など実務上の取り扱いに左右される側面が強いです。
例えると:遺産分割協議書は「家をどう分けるかを決める最終合意書(完成図)」。相続同意書は「家の中の冷蔵庫の中身だけ先に使っていいよ、と皆が書面で同意したメモ」。どちらも“合意”ですが、作用の範囲と法的な強さが違います。
1-3. 相続同意書が持つ法的効力とその限界
効力(何ができるか)
証拠力・合意の存在を示す:相続人全員が署名押印した相続同意書は、「全員がその取り扱いに合意している」ことの有力な証拠になります。金融機関や各種手続き先は、これをもとに手続きを進めることがあります。
実務上の便宜を与える:銀行が口座の一部払戻しに応じたり、地方自治体や役所で許認可の名義変更に応じたりする場面があります(ただし機関ごとに対応は異なる)。
限界(何ができない/注意点)
所有権や登記を自動的に変える強さはない:不動産の名義を変えたい、所有権を確定させたいという場面では、一般に「遺産分割協議書(場合によっては公正証書化)」が必要なことが多く、相続同意書だけでは登記手続に不十分な場合があります。特に不動産登記や自動車登録などは制度上の要件があるため、事前に必要書類を確認する必要があります。
後日の争いのリスク:当事者の意思表示に錯誤・脅迫・詐欺などがあれば、その合意は取り消され得ます(裁判で無効とされることがある)。つまり「書面がある=絶対に安全」ではありません。後で「合意していない」「同意したのは錯誤だ」と争われると、法的争いに発展することもあります。
金融機関・役所での扱いがバラつく:口座の払戻しや名義変更で何を要求されるかは各金融機関・手続先で異なります。たとえば印鑑証明の提出を求められるケースも多く、相続同意書だけで済まないことが多いです。事前に窓口で「どの書類が要るか」を確認するのが実務上の鉄則です。
実務:相続同意書の書き方(初心者向け)とチェックリスト
以下は一般的に入れておくべき項目の例です。金融機関や手続先が指定様式を持っている場合は、それに従ってください。
必要記載項目(例)
書類名:「相続同意書」
被相続人の特定:氏名、死亡日、生年月日、住所など(誰の遺産か特定できるように)。
対象となる遺産の明確化:預貯金なら金融機関名・支店名・口座番号・金額(可能なら)/自動車なら車台番号/許認可なら許認可名・番号等を明示。
合意内容:誰(相続人A)がどのように取り扱うか、払戻し、名義変更、継承など具体的に記載。
相続人全員の氏名・住所:相続人の氏名・住所を列挙し、漏れがないようにする。
署名押印:相続人全員の署名・押印(※金融機関は実印+印鑑証明の提出を求めることが多い)。
作成年月日・作成場所。
添付書類(典型例):被相続人の戸籍(出生→死亡の連続したもの)、相続人全員の戸籍、相続人の印鑑証明書(発行日から期間が定められる場合あり)。
サンプル文(やさしい言葉で短めの例)
被相続人○○(平成○年○月○日死亡、住所:○○)の預貯金(△△銀行 △△支店 普通口座○○番)について、下記相続人全員は、令和○年○月○日付で長男 ○○(以下「受取人」という)に対して全額を支払うことに同意します。 ※下に相続人全員の氏名・住所・署名・実印(押印) ・印鑑証明書添付欄を設ける。
(実際にはもっと詳しく資産の特定や条件を入れます。上の文は「考え方」のイメージです。)
よくある質問(FAQ)と現場での対応アドバイス
Q1:銀行は相続同意書だけで払戻しに応じますか?A:ケースバイケースです。銀行は通常、戸籍謄本や相続人全員の印鑑証明なども求めます。金融機関によって扱いが異なるため、事前に取引銀行の窓口で具体的に「何が必要か」を確認しましょう。
Q2:一度作った相続同意書を後から一人の相続人が覆せますか?A:全員の合意による書面であっても、詐欺・脅迫・重大な錯誤(思い違い)などがあれば、後で無効を争うことは可能です。合意が真に自主的に行われたかは裁判で争われると最終的に判断されます。合意を堅くしたい場合は、遺産分割協議書を作成し、公正証書化するなどの方法を検討します。
Q3:相続同意書で不動産の名義変更はできますか?A:不動産登記は要件が厳しいので、一般に「遺産分割協議書(と必要書類)」を根拠に登記申請するのが普通です。相続同意書だけで登記を済ませられるかはケース・登記所の判断によります。司法書士や弁護士に相談するのが確実です。
実務チェックリスト(手続きをスムーズにするために)
まず窓口確認:銀行・役所・運輸局(車)など、手続きをする先に「相続同意書で対応可能か、どの書類が必要か」を電話または窓口で確認する。
戸籍類を揃える:被相続人の除籍謄本(出生〜死亡までつながるもの)や相続人全員の戸籍を用意。これがないと相続関係が証明できない。
印鑑証明の準備:相続人全員の印鑑証明書(発行日から何か月以内かは機関による)。可能なら実印で押印。
相続人全員の同意を明確に:署名・押印をもれなく。勝手に代表者だけ署名して処理を進めると後で争いになるリスクが高まる。
必要なら専門家へ:不動産や許認可の承継、税務面での影響がある場合は司法書士・弁護士・税理士に相談。公正証書化や遺産分割協議書への段階的移行を検討する。
最後に(まとめ+注意喚起)
相続同意書は便利な“実務書類”ですが万能ではありません。 使いどころ(銀行の一時的払戻し、車の名義変更など)を踏まえ、必要書類を先に確認してから作成しましょう。
遺産関係を完全に確定させたいときは、遺産分割協議書(場合によっては公正証書化)を検討してください。公正証書にすれば証拠力や執行力が高まり、後のトラブル予防になります。
迷ったら専門家に相談:文言の書き方や添付書類、税金・登記の影響は個別事情で変わるため、具体的な場面では司法書士や弁護士、税理士などに相談するのが安全です。
2.相続同意書が必要となる場面
相続同意書は「相続人全員がある特定の遺産について●●してよいと合意したことを示す書面」です。ここでは実務でよく出る場面ごとに、何が必要で相続同意書がどのように使えるかを、初心者にもわかる言葉と具体例で丁寧に解説します。※各金融機関・行政機関で求める書類や扱いが異なるため、必ず事前に窓口で確認してください。
2-1. 預貯金の解約・払い戻し手続き
どういう場面か(かんたんに)葬儀費用や当面の生活費を支払うため、故人の口座からお金を引き出したいとき、銀行は「口座が凍結されている」ため通常そのまま払戻してくれません。そこで、相続人全員の合意を示す相続同意書(+戸籍や印鑑証明など)を提出して、銀行に一時的な払戻しや解約を認めてもらうことがあります。いわば「みんなでOK出しますよ」という合意書です。
銀行は何を求めるか(実務)通常、銀行は次のような書類を求めます(銀行や取引内容によって差があります):
被相続人の戸籍(死亡が確認できるもの)や除籍謄本。
相続人全員の戸籍や住民票。
相続人全員の印鑑証明(実印を押印することを求められる場合が多い)。
遺言書がある場合は遺言書や検認済証明。
上記の代わりに、相続同意書を受け入れる銀行もあるが、銀行ごとに対応が分かれる。
具体例(物語でイメージ)長男のAさんが葬儀費用100万円を出す必要がある→口座は凍結→兄弟姉妹全員で「葬儀費用としてAが100万円引き出すことに合意する」と相続同意書を作って銀行に持っていく→銀行が戸籍・印鑑証明等を確認して、一時的払戻しに応じる場合がある(応じない場合もある)。
注意点(リスクと対策)
相続同意書があっても、銀行がさらに印鑑証明や遺産分割協議書を求めることがある(求められる書類は金融機関により異なる)。事前に窓口で「何が必要か」を確認するのが最優先。
相続同意書で全ての争いを防げるわけではありません。後に「合意したつもりはない」等で争いになれば、裁判で無効とされる余地もあるので、重要な分割については遺産分割協議書や公正証書を検討する。
実務チェックリスト(預貯金)
取引銀行へ電話または窓口で「相続手続きで何を出せばいいか」を確認する。
被相続人の戸籍(出生→死亡まで)を用意。
相続人全員の戸籍・印鑑証明(実印)を揃える。
相続同意書を作る(対象口座・金額・使途を明確に)。
銀行へ提出し、必要なら追加書類を用意する。
(ワンポイント)相続同意書の文言例(預貯金)
被相続人 ○○(死亡日:令和○年○月○日、住所:○○)名義の△△銀行△△支店 普通預金口座(口座番号:○○)について、下記相続人全員は令和○年○月○日、長男 △△ が葬儀費用として金○○円を引き出すことに同意する。 (相続人氏名・住所・実印・印鑑証明添付) ※実際には銀行の指定様式がある場合もあるため、まず窓口へ。
2-2. 車や船舶などの名義変更
概要(かんたんに)自動車や船舶の名義(登録)を故人から相続人に変えるとき、手続き先(運輸支局や港湾管理者など)は「誰がその車・船を引き継ぐのか」を明らかにする書類を求めます。複数の相続人がいる場合、誰が取得するかを証明するために「遺産分割協議書」が求められることが通常ですが、ケースによっては相続同意書で進められるか確認されることもあります。
運輸局(自動車)での一般的扱い
相続人が1人であれば、その相続人の戸籍・印鑑証明などを提示することで名義変更ができる場合が多い(=相続同意書は不要)。
相続人が複数いる場合は、原則として誰がその車を取得するかを示す「遺産分割協議書」や「遺産分割協議書に代わる書類(状況により)」が必要とされることが多い。相続同意書だけでは足りないケースが多いので要確認。MLIT(国土交通省関係)の案内や運輸支局の窓口にて必要書類を確認しましょう。
具体的な流れ(自動車の名義変更)
故人の車検証を確認。
故人の除籍謄本や戸籍(死亡の確認)を用意。
相続人の戸籍・住民票・印鑑証明(3か月以内等)を用意。
相続人が複数→遺産分割協議書(実印押印・印鑑証明添付)を用意。
運輸支局で登録変更手続き(必要書類は管轄で確認)。
注意点(実務)
車や船舶の登録は「物の登記」に近い手続きで、提出書類の要件が比較的厳格です。したがって「口頭での合意」や簡易な相続同意書だけでは受け付けられないことが多いです。必ず事前に運輸支局・港湾管理課などの窓口へ確認すること。
ケーススタディ(イメージ)長女Bさんと次男Cさんがいる→故父の車をBがもらいたい→Bが単独で名義変更するには、Cの同意が必要→一般にはCの署名押印がある「遺産分割協議書」を提出して、B名義に登録する。相続同意書を出しただけでは、運輸局が受け付けない可能性が高い。
2-3. 許認可を伴う事業の承継
概要(かんたんに)個人事業で「営業許可」や「免許」が必要な業種(飲食店の食品衛生許可、建設業許可、介護や医療関連の許認可など)を故人が営んでいた場合、単に相続同意書を出せば“そのまま自動的に許可が承継される”とは限りません。多くの許認可は事業主体の変更(名義人変更)や再申請が必要になる場合があるため、事前に所管庁に確認することが重要です。
制度的なポイント(重要)
行政側のルールによって、死亡による相続では「簡易な届出」で済む許認可もありますが、多くは新規取得や審査が必要です(特に安全性・技術資格が問われる分野)。したがって、相続同意書だけでOKとはならないことが多い点に注意。
具体例
飲食店(食品衛生):保健所によっては営業を継続するために手続き(届出・許可の名義変更)や設備点検などの確認が求められる。
建設業:建設業許可は技術者要件や資金要件が重要で、単純な名義変更ができないケースが多い(許可を受けるには厳格な要件確認)。
医療・介護:専門資格や施設基準が絡むため、個別の審査になる。
実務アドバイス(事業承継時)
まず管轄の役所(保健所・都道府県庁・市役所等)へ事情を説明し、必要手続きを確認する。
相続同意書は「相続人内の合意」を示す証拠としては有効だが、許認可の名義変更を認めるかどうかは役所の判断次第。必要なら新たに許認可を取得する準備を。
許認可が継続される場合でも、提出書類(相続関係を示す戸籍・遺産分割協議書等)や技術者・責任者の確認が必要になる。
例(イメージ)故人が営む小さな旅館を家族が続けたい→旅館業や消防・保健の要件が関係するため、単に相続同意書を出すだけで済むとは限らず、役所と相談して必要な更新や再申請、設備確認を経て継続できるか確認する必要がある。
2-4. 相続同意書が不要なケース(相続人が1人、遺言がある、裁判所での手続きなど)
相続同意書が不要な主なケース
相続人が1人しかいない場合:相続関係が明白で相続人が単独なら、金融機関や各種窓口は相続同意書を求めず、戸籍や印鑑証明だけで手続きを進められることが多い(車の名義変更や預貯金の解約など)。ただし窓口の運用は異なるため事前確認は必須。
有効な遺言書がある場合:遺言で特定の相続人に遺産が指定されている(受遺者が明確)なら、遺言に基づく手続きが優先され、相続同意書は不要な場合が多い。公正証書遺言や検認済みの遺言に従って処理されます。
家庭裁判所の手続きを経る場合:遺言執行者が選任されている場合や、相続財産管理人が選任されるケース、また遺産分割の調停・審判があるケースでは、司法の決定・執行に基づいて手続きが進むため、相続同意書が不要・意味を持たない場合がある。裁判所の決定が優先されます。
具体例(単独相続)故人に妻1人だけが相続人であれば、妻が戸籍と印鑑証明を持って銀行・運輸局で手続きを行えることが多く、相続同意書は不要です。ただし、相続内容が複雑な場合や口座の性質によって別途書類が必要になることがあるため、窓口確認は忘れずに。
遺言がある場合の扱い遺言で「預金は長男へ」「土地は長女へ」と指定されているときは、遺言内容(公正証書遺言なら手続がスムーズ)に従います。遺言執行者がいる場合、執行者が手続きを進めるため、相続同意書は基本的に不要です。
まとめ(実務的なアドバイス)
まず“窓口確認”が最優先:銀行・運輸支局・所管行政庁それぞれで求める書類が異なります。相続同意書を作る前に「何が必要か」を電話や窓口で確認してください。
相続同意書は“実務の便宜”に強い味方:葬儀費用の払戻しなど短期的な手続きでは非常に有効。ただし、登記・許認可・重大な権利移転については遺産分割協議書や公正証書、または所管の審査が必要になることが多いです。
争いを起こさないための工夫:重要な分割や高額資産は、相続同意書で済ませず遺産分割協議書(可能なら公正証書)にすることで、後日の争いリスクを下げられます。
3.相続同意書の作成方法
ここでは「相続同意書をこれから作る人」が、何を順番にやればよいか、どんな項目を必ず書くべきか、実務で使える雛形(テンプレ)と注意点まで――初心者にもわかる言葉で詳しく解説します。全体の流れを「地図」にたとえると、まずは『誰が相続人かを確認→何が財産かを調べ→話し合って合意を作る→合意を書面にする』という順序になります。実務上の基本フロー自体は各金融機関や役所も推奨している手順です。
3-1. 作成の流れ(4つのステップ)
(1) 相続人の確定(まずは“誰が相続人か”をはっきりさせる)
なぜ必要か:相続同意書は「相続人全員の同意」が前提です。相続人に漏れがあると、後で「私は相続人なのに呼ばれていない」と争いになります。
具体的にすること:被相続人(亡くなった方)の出生〜死亡まで連続する戸籍(除籍含む)を取得し、法定相続人(配偶者・子・直系尊属・兄弟姉妹など)を確認します。金融機関や手続き先で求められるのはこの「相続関係」を証明する書類です。
(2) 遺産・債務の把握(何を分けるのか正確に把握する)
なぜ必要か:対象財産を特定しないまま同意書を書くと、後で「それは含まれていない」と揉める原因になります。
具体的な作業:預貯金の銀行名・支店・口座番号、不動産の所在・地番、自動車の車台番号、株式や生命保険の受取人情報、借金(ローン・未払金)まで洗い出します。発見しにくい財産(貸金庫の中身、名義預金、未支給の退職金など)にも注意。財産目録(一覧表)を別紙で作ると実務上とても便利です。
(3) 遺産分割の協議(誰が何をどのように取得するか話し合う)
なぜ必要か:「ある相続人が特定の財産を取得してよい」という相続同意書は、相続人同士の合意に基づきます。全員で具体的に分配方法(誰が何を取得するか、債務は誰が負うか)を決めます。
コツ:現物分割(物そのものを分ける)、代償分割(誰かが他の相続人へ代償金を払う)、換価分割(売却して現金を分ける)など分け方の選択肢を理解して話を進めるとスムーズです。特に預貯金を複数人で分ける方法は銀行対応にも差があるため事前に銀行へ確認しておきましょう。
(4) 同意内容の明文化(合意を正式な書面に落とす)
書面化のポイント:どの財産が、誰に、いつ、どのような条件で引き継がれるかを具体的に記載します。署名・押印は相続人全員分必要です(金融機関では実印+印鑑証明を求められることが多い)。さらに、添付書類(戸籍、印鑑証明、財産目録)を整えて提出します。
3-2. 記載すべき基本項目(各項目の意味と注意点)
以下の項目は、相続同意書に**必ず入れておくべき「必須項目」**です。1つでも漏れると手続きに時間がかかったり、後で無効が争点になることがあります。
書類名(タイトル):「相続同意書」や「相続財産承継同意書」など一目で用途が分かるタイトル。
被相続人の氏名・住所・死亡日等:誰の財産か特定します(出生〜死亡まで戸籍で確認できるように)。
相続人全員の氏名・住所・続柄(相続人の特定):全員分を漏れなく記載し、後で戸籍と照合できるようにしておく。
対象となる財産の特定:金融資産なら銀行名・支店名・口座番号・金額(ある程度の特定が可能な範囲で)。不動産なら所在・地番・登記簿記載事項、自動車なら車台番号等、できるだけ詳細に。
分割・承継方法:誰が取得するのか/金銭で清算するのか/いつ振込をするのか等の具体的な手続フローを明記。銀行へ提出する目的なら、払戻し金額や用途(葬儀費用など)を明記する例が多いです。
附帯条件(ある場合):代償金の支払期日、相続税按分の取り決め、名義変更の担当者など。
相続人全員の署名・押印(実印が望ましい)と印鑑証明添付:金融機関は実印+印鑑証明(発行日から何か月以内か)を指定することが多いです。
作成年月日・作成場所:いつ合意したかを明確にします。
添付書類一覧:戸籍謄本、除籍謄本、住民票、印鑑証明、財産目録、通帳や車検証のコピー等を列挙しておくと親切。
3-3. ひな型・雛形例(使えるテンプレート)※そのまま使って調整してください
以下は実務でよく使われる簡潔な雛形の例です。実際に銀行や役所に提出する際は、窓口での指定様式があるかもしれないので、まずは先方に確認してから使ってください(※サンプルは説明用です)。
サンプルA:預貯金の払い戻し(簡易型)
相続同意書
被相続人:○○ ○○(生年月日:昭和○年○月○日 死亡日:令和○年○月○日 住所:○○市○○町○丁目○番)
対象口座:△△銀行 △△支店 普通預金 口座番号 0000000(残高見込み:概算○○円)
下記相続人は、上記預貯金につき、葬儀費用の支払いのため、長男 ○○ ○○(住所:○○市○○町)に対し金 ○○円を被相続人名義の当該口座から引き出すことを承認します。
(相続人一覧)
1. 氏名:○○ ○○ (続柄:長男) 住所:○○ 署名・押印(実印):
2. 氏名:△△ △△ (続柄:長女) 住所:△△ 署名・押印(実印):
(以下必要に応じて続ける)
作成年月日:令和○年○月○日
添付書類:被相続人の戸籍(出生〜死亡の連続)、相続人全員の戸籍、相続人全員の印鑑証明(各1通)
(銀行提出欄)
銀行受付印:
※実務上は印鑑証明の提出や、銀行所定の用紙を使うことが多いです。
サンプルB:自動車の名義変更(簡易メモ)
相続財産承継同意書(自動車)
被相続人:○○ ○○(死亡日:令和○年○月○日)
対象車両:車名 ○○ 車台番号 ○○ 車検証コピー添付
下記相続人全員は、上記車両を長女 ○○ ○○が取得することに同意します。長女は相続による名義変更手続きを行うものとし、必要書類(除籍謄本・相続人の住民票等)は提出済み/提出予定とする。
相続人署名・押印(実印):(全員分)
作成年月日:
添付書類:被相続人の戸籍、相続人の戸籍、相続人全員の印鑑証明、車検証コピー
(運輸局は通常、遺産分割協議書を求める場合が多いため、相続同意書だけでは不可の場合があります。事前確認が必須です。)
サンプルC:事業許認可の承継(ポイントのみ)
「許認可名」「許可番号」「当該事業の営業所」「承継者(誰が継ぐか)」を明記し、所管庁へ提出する旨を記載。許認可は所管庁の判断で再審査や再申請が必要になることが多い点に注意。
※ 上のサンプルは「使い方のひな形」です。各機関の指定様式・追加書類(印鑑証明の有効期限など)を必ず確認してください。多くの銀行や窓口が詳細に要件を公開しています。
(雛形の入手先)インターネット上には遺産分割協議書・相続同意書の雛形が多数公開されています。弁護士や司法書士が公開しているテンプレや、実務系サイトのダウンロード形式が使いやすいです。
3-4. 作成時の注意点(よくある落とし穴と対処法)
後日判明した財産の扱い(追加財産が出てきたら)
追加で財産が見つかった場合、既に交わした合意をどう扱うかが問題になります。相続同意書が「特定の財産だけ」を対象としている場合は、追加財産については改めて協議・同意を取り直す必要があります。場合によっては遺産分割協議書を作り直すか、追記する形で処理します。
誤記・不備のリスク(記載ミスは後の争いに直結)
財産の特定が曖昧(例:「預金全額」とだけ書く)だと解釈の違いが生じます。できる限り「銀行名・支店・口座番号」「不動産なら地番や登記簿番号」など、第三者が見ても特定できる書き方を心がけてください。
署名押印と印鑑証明(形式要件)
金融機関では実印+印鑑証明を要求されることが多く、実印で押印していないと「無効」として扱われる可能性があります。印鑑証明は発行からの有効期間(銀行によっては3か月以内など)指定があるので確認を。
撤回・取り消しの難しさ(安易に“口約束”で済ませない)
一度署名押印された合意は、後で「やっぱり撤回する」と言っても簡単には覆りません。詐欺・脅迫・重大な錯誤などがあれば別ですが、通常の合意を後から覆すのは困難です。重要な財産・不動産などは、遺産分割協議書を作成し、公正証書にしておくことで合意の安全性を高められます(公正証書化は法務省の公証制度で手続き可能)。
手続き先による扱いの違い(窓口確認が最重要)
銀行、運輸局、役所、所管庁など各窓口で求める書類や運用が異なります。相続同意書で足りるかどうかは窓口次第です。提出前に必ず電話・窓口で必要書類を確認してください。
専門家に依頼すべきケース
不動産登記、相続税が絡む、高額資産や利害対立があるケースでは、司法書士・弁護士・税理士・行政書士など専門家に依頼することをおすすめします。専門家が関与すると、書面の漏れを減らし、その後のトラブルを大幅に軽減できます。
まとめ(実務チェックリスト)
相続人を戸籍で確認する(出生→死亡の連続)。
対象財産をリスト化(銀行・不動産・車・保険・負債)。
各手続き先(銀行・運輸局・所管庁)へ事前確認。
相続人全員の署名押印(実印)と印鑑証明の準備。
同意書に財産の特定・承継方法・附帯条件を明記。
重要資産は遺産分割協議書あるいは公正証書化を検討。
争いの恐れがある場合は専門家へ相談。
4.遺産分割協議書との比較
相続同意書と遺産分割協議書は「どちらも相続人の合意を記す書面」という点では似ていますが、役割・効力・使いどころがかなり違います。ここでは初心者にもわかるように、やさしい言葉と具体例で違いを整理し、実務での使い分けポイントを詳しく解説します。
4-1. 相続同意書で対応できる手続き(“実務の小回り役”)
どんな場面に向くか(かんたんに)相続同意書は「特定の手続きを進めたいとき」に使う実務上の合意書です。たとえば次のような場面で実際に使われます。
葬儀費用や当面の生活費のために口座の一部を引き出したい(銀行の一時払戻し)。
故人の預金から一定金額を特定相続人が受け取ることに全員が合意する場合。
事務的に短期間で手続きを進めたい(急いで資金が必要なケースなど)。
相続人同士で「この財産だけ先に処理して良い」と決めて、その事実を示したいとき。
相続同意書の特徴(メリット)
スピード:比較的簡単に作れて、急ぎの手続きに対応しやすい。
柔軟性:対象を口座1つ、車1台のように限定できるため、部分的な処理に便利。
実務的受容:銀行や窓口が「この同意で処理できる」と認めれば手続きが進む。
例え話相続同意書は「応急処置の同意書」。引き出しや名義変更の“応急対応”に使う、簡単な承諾メモのようなイメージです。
注意点
対象が不動産や高額な財産で、登記や公式な権利移転が必要な場合には相続同意書だけでは不十分なことが多い。
銀行や役所で相続同意書だけでは受け付けない(遺産分割協議書や追加書類を求められる)ケースもある。
4-2. 遺産分割協議書が必要となるケース(“権利関係を確定する本丸”)
どんな場面に向くか(かんたんに)法律上・登記上の効力や長期的な権利関係を確定させたい場合は、遺産分割協議書が必要になることが多いです。具体的には:
不動産の名義変更(登記):土地・建物の登記名義を変えるには、通常は遺産分割協議書を根拠に登記申請します。
高額資産の最終的な配分を確定する場合:相続人間で「これが最終的な分配だ」と確定させるため。
相続人間の権利関係を明確にして将来の争いを防止したいとき。
金融資産の恒久的な配分(単なる一時払戻しでない)や会社株式の移転など、権利移転を第三者に示す必要がある場合。
遺産分割協議書の特徴(メリット)
法的確定力が強い:相続人全員の合意を記載し、公正証書にするなどの方法を取れば後の争いに強い。
登記・手続きの基礎になる:不動産登記や自動車登録など、第三者(登記所・運輸局等)に提出する書類として広く受け入れられる。
税務にも影響:誰がどれだけ取得したかは相続税の計算や申告に影響するため、分割の方法を明確にしておくと税務処理しやすい。
例え話遺産分割協議書は「家の所有図面を最終決定して登記するための契約書」。家(不動産)や会社株のように“所有権そのもの”を確定させるときに使う、大きな決まりごとです。
注意点
作成に手間がかかる(相続人全員の戸籍・印鑑証明の収集、合意の調整、場合によっては公正証書化)。
重要な財産は公正証書にしておくことでさらに効力が強まるが、公証役場での手続きと費用が発生する。
4-3. 書類の効力・使い分けの実務ポイント(現場でどう使い分けるか)
ここが実務で最も重要な部分です。下のポイントを基準に「相続同意書で済ませるか」「遺産分割協議書を作るか」を判断してください。
1) 「対象財産の性質」で考える
不動産・会社株式・高額資産 → 遺産分割協議書(原則)これらは所有権の移転が関係するため、第三者(登記所・株主名簿など)に提示できる確かな書面が必要。
預貯金の一時払戻し・小額の返済・急な出費対応 → 相続同意書で対応可能なことが多いただし銀行ごとに対応が異なるので事前確認を忘れずに。
2) 「目的(短期的か長期的か)」で考える
短期の応急処置(葬儀費用など) → 相続同意書が向く。
将来にわたる権利確定(名義変更・売却・恒久的な分配) → 遺産分割協議書が必要。
3) 「第三者に提示する必要性」で考える
登記や運輸局、株主総会、税務署等、公式な手続きが絡む → 遺産分割協議書(公正証書化が望ましい)。
金融機関の内部処理や一時的な支払い → 相続同意書で足りる場合がある。
4) 「争いの可能性」で考える
相続人間に争いの種が予想される → 公正証書化した遺産分割協議書を検討(第三者性・証拠力が高まり後の争いを防止)。
信頼関係があり限定的処理だけで済む → 相続同意書でスピード優先。
5) 実務的な押さえどころ(チェックリスト)
相続人を戸籍で正確に確認したか。
対象財産を特定できる情報(銀行名・口座番号、不動産の地番、車台番号など)が書かれているか。
全員の署名・押印が揃っているか(金融機関は実印+印鑑証明を要求することが多い)。
「いつ」「誰が」「どのように」処理するか(振込期日や代償金の支払期日等)を明記しているか。
将来の追加財産や争いが出た場合の扱いを決めているか(追記事項・再協議条項など)。
重要案件なら専門家(司法書士・弁護士・税理士)に確認したか。
6) 具体的な文例比較(短いサンプル)
相続同意書(預金の一時引出し用・簡易)「被相続人Aの○○銀行△△支店普通口座(口座番号○○)から葬儀費用として金○○円を長男Bが引き出すことに、下記相続人全員が同意する。」→ 一時的な払戻しを許可する実務向け。
遺産分割協議書(不動産取得のための正式合意・抜粋)「被相続人Aの所有する土地(所在:○○市△△、地番:□□)は相続人Cが取得する。相続人全員はこれを承認し、Cは取得に伴う登記手続きを行うものとする。」→ 権利移転(登記)を前提にした正式合意。
7) 公正証書化の効果(なぜ検討するか)
遺産分割協議書を公正証書にすると、公証人が作成するため書面自体の信用度が高まり、強い証拠力を持ちます。場合によっては執行手続(強制執行)に着手しやすくなるため、合意が守られない場合に迅速に実行する手段が得られます。
ただし公正証書化には手続き(公証役場での手続き)と費用がかかるため、重要度に応じて判断します。
よくあるケース別の使い分け(実例で理解)
ケースA:葬儀費用が足りない → 相続同意書説明:葬儀費用を長男が立て替えるため、兄弟全員で「長男が〇円を預金から引き出すことに同意する」と書く。銀行によってはこれと戸籍・印鑑証明で払戻しに応じる。
ケースB:父の土地を長女が相続して登記したい → 遺産分割協議書(+登記申請)説明:土地の名義変更には登記申請が必要。遺産分割協議書で誰が取得するか確定し、司法書士に依頼して登記を行うのが一般的。
ケースC:故人が個人事業を営んでいた → 相続同意書+所管庁手続or遺産分割協議書説明:営業許認可の扱い次第。許認可の名義変更や再申請が必要な場合が多く、所管庁と相談しつつ遺産分割の位置づけを決める。
まとめ(実務的なワンページ結論)
短期・限定的な手続きなら「相続同意書」:葬儀費用や一時的払戻しなど、急ぎで且つ対象が明確な場合に向く。
所有権の確定や登記が関係する場合は「遺産分割協議書」:不動産・会社株・自動車登録など、第三者に提示して効力を確保したいときは遺産分割協議書を作る。
争いが予想される・確実性を高めたい場合は「遺産分割協議書を公正証書化」:証拠力と執行力が強まる。
まずは窓口確認&専門家相談を:銀行・登記所・所管庁で必要書類が異なるため、手続きの前に窓口で要件を確認し、重要案件では司法書士・弁護士・税理士に相談することをおすすめします。
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5.相続同意書作成の実務上の留意点
相続同意書は「早く・実務的に」動ける便利な書面ですが、ちょっとした手違いや認識のずれが将来の大きな争いに発展することがあります。ここでは現場でトラブルを防ぐための具体的な注意点を、初心者にも分かる言葉と例で丁寧に解説します。
5-1. トラブル防止のための事前確認
「作る前の準備」で失敗を防げます。重要なのは、相手(窓口)と相続人の両方に確認を取ることです。
事前に必ず確認すること(チェックリスト)
被相続人の戸籍が整っているか(出生〜死亡まで連続しているか)。
相続人が全員把握できているか(戸籍で確認)。
対象財産を具体的に特定できているか(銀行名・支店・口座番号、不動産の地番・登記簿情報、車の車台番号など)。
手続き先(銀行、運輸局、所管庁など)が「相続同意書で対応可能か」「どんな書式・添付書類を要求するか」を事前に確認しているか。
相続人全員の署名押印(実印が必要か)、印鑑証明の有効期限を確認済みか(金融機関は発行後3ヶ月以内を指定することが多い)。
税務(相続税申告)や債務(故人の借金)について税理士・司法書士に確認したか(必要に応じて)。
なぜ窓口確認が肝心か(実例)
銀行Aは「相続同意書+戸籍+印鑑証明」で払戻しするが、銀行Bは「遺産分割協議書(原本)」を要求する——というケースはよくあります。つまり書面を作る前に窓口に電話して「何を出したら受け付けるか」を確認するだけで無駄足を防げます。
実務のコツ(書き方の工夫)
対象を曖昧にしない:「預金全額」と書くのではなく「△△銀行 △△支店 普通口座 口座番号 0000000 のうち金○○円」と特定する。
いつまでに何をするか明記する(例:「令和○年○月○日までに長男Aが金融機関で払戻しを行う」)。
添付書類を明示する(戸籍、印鑑証明、通帳のコピー等)。
5-2. 相続人間のコミュニケーションの重要性
文書の効力以前に、人間関係のケアが何より重要です。相続トラブルの多くは「情報共有不足」と「期待値のズレ」から起こります。
良いコミュニケーションの方法
事前ミーティング(顔合わせ)を開く目的:誰が何を把握しているかを共有し、優先順位(葬儀費用、生活費、名義変更など)を決める。実務メモ:会議は日時・場所を決めて議事録を残す。議事録は後で重要な証拠になります。
議事録(短いメモ)を作る内容:出席者名、日時、確認した財産、合意したこと、次回のアクション(誰が何をするか)。コツ:議事録は必ず参加者に配布して「確認しました」という返信をもらう。メールでOK。
書面での承認を得る(口頭は危ない)口頭だと「言った・言わない」の争いに。合意したら必ず書面(相続同意書や確認書)を作り、署名をもらう。
第三者(専門家)をいれた方がうまくいく場面感情的な対立があるとき、司法書士・弁護士・行政書士・税理士など第三者の立ち合いで話を進めると中立的な合意が取りやすくなります。
コミュニケーション例(招集メールの文例)
件名:相続手続きに関する家族会議のお願い(○月○日 ○時)本文:故○○の相続手続について、下記の通り家族会議を開きたく存じます。出席の可否を○月○日までにお知らせください。 議題: ①相続人の確認 ②財産一覧の共有 ③当面の支払い(葬儀費用等)について ④相続同意書の作成方針。
トラブル防止のワンポイント
話し合いで合意した内容は「合意メモ→相続同意書」と段階的に文書化する。
反対意見や留保がある人は、その理由を書いてもらい、記録として残しておく(後で「同意した」と誤解されるのを避けるため)。
5-3. 公序良俗違反や法律で定められた手続き不備による無効リスク
合意があっても、内容や作り方によっては無効または取り消されるリスクがあります。重要なポイントをわかりやすく説明します。
無効・取り消しにつながる代表例(やさしい説明)
公序良俗違反(公の秩序・善良な風俗に反する内容)例:「相続人の一人が犯罪に使う目的で財産を譲る」など、法律や社会のルールに反する合意は無効です。
詐欺・強迫・重大な錯誤(意思表示が真実の意思ではない場合)例:ある相続人が脅されて署名した、重大な事実(負債があること)を隠された、など。こうした場合は取り消しを主張できます。
署名押印が揃っていない、または実印と印鑑証明がない特に金融機関では「実印+印鑑証明」を求めることが多く、形式不備で受け付けられないことがあります。
未成年や成年後見の対象者が関与している場合の手続き不備未成年者や判断能力が制限されている相続人は、代理人(法定代理人や成年後見人)が必要な場合があります。代理権のない人の署名は無効になり得ます。
法定相続分を一方的に奪う不公平な条項(強制的な相続放棄等)極端に不公平な条項は、後で裁判所が無効として判断することがあり得ます。
無効リスクを下げるための作り方(実務上の対応)
明確に・限定的に書く:対象財産・金額・目的を具体的に記述する。
署名押印のルールを守る:実印押印+印鑑証明添付など、窓口要件に従う。
証人を立てる:親族以外の第三者証人(2名程度)の署名をもらうと、後日の争いで「合意はあった」という証拠力が上がります(証人は公証人ではない)。
公正証書化の検討:重要な分割については公証役場で公正証書にすると、執行力や証拠力が強化されます(費用はかかる)。
追記・再協議条項を入れる:後日追加財産が見つかった場合の対応をあらかじめ規定しておく(下に例文あり)。
代理人の確認:代理署名がある場合は委任状・代理権限を証明する書類を添付する。
追記事項(ひとことで安心材料を入れる例文)
下のような条項を同意書に入れておくと、後日の追加財産や齟齬が出たときにスムーズです。
追記事項(サンプル)
「本同意書は、記載した対象財産に関してのみ効力を有する。後日新たな財産が発見された場合は、相続人全員で誠実に協議し、必要に応じて別紙にて追加の合意を行うものとする。」
撤回条項(サンプル)
「一度本同意書により対象財産の払戻し・承継が行われた場合、当該処理が相続人全員の明示的合意に基づくことを確認する。詐欺・強迫その他重大な事情がある場合を除き、相続人は本同意書を一方的に撤回しないものとする。」
これらの条項は「将来の手続きや争いの予防」に有効ですが、条項自体が不合理に一方を拘束するものであれば逆効果になることもあります。重要な条項は専門家と相談して作るのが安全です。
最後に:実務で使える「簡易チェックリスト」と推奨フロー
作成前チェック(短縮版)
相続人を戸籍で確定したか。
対象財産を特定(口座番号・地番・車台番号等)。
手続き先(銀行等)に必要書類を確認したか。
全員の署名押印(実印)と印鑑証明の準備。
議事録ややり取りの証拠を残す(メール・議事録)。
争いの予想がある場合は公正証書化や専門家の関与を検討。
推奨フロー(実務上の流れ)
家族会議で方針を共有 → 2. 対象財産リスト作成 → 3. 窓口(銀行等)へ事前確認 → 4. 相続同意書ドラフト作成 → 5. 相続人全員の署名押印・証拠保管 → 6. 提出・手続き実行 → 7. 必要なら遺産分割協議書で最終確定
6.専門家に依頼すべきケース
相続手続きは「ちょっと戸籍を取って、銀行に書類を出すだけ」で済むこともありますが、ケースによっては専門家に頼んだほうが早く安全に済むことが多いです。ここでは「どんなときに誰に頼むべきか」を、初心者でもわかる言葉・具体例・実務的チェックリストを入れて詳しく解説します。
6-1. 相続人同士で意見が対立している場合 — すぐ弁護士を検討する理由
どんなときに依頼すべきか(かんたん)相続人間で取得の優先が争われている、遺産分割の割合や特定財産の帰属で揉めている、あるいは一方が合意に応じない――こうした「争い(利害対立)」がある場合は、まず弁護士(=法律の専門家)への相談を強くおすすめします。弁護士は交渉の代理、調停や審判(裁判)での代理ができ、法的に有効な解決策を作ります。
なぜ弁護士が先か(理由)
口約束や当事者間の同意だけでは解決しにくく、後で争いが再燃するリスクが高い。
裁判所手続き(遺産分割調停・審判)や遺留分侵害額請求など、実際に法的措置を取りたい場合は弁護士だけが代理できる場面があるため。
実務アドバイス(対処の順)
まず家族で話し合い、議事録を残す(感情を整理するため)。
話がまとまらない・感情的対立がある→弁護士に相談。初回無料相談を行っている事務所も多いので、費用や方針を確認。
ケース例「長男が家を相続すると約束したが、他の兄弟が『公平でない』と反対している」→話し合いで決着つかないなら弁護士が代理交渉や調停申立てで解決を図る。
6-2. 不動産・事業など財産が複雑な場合 — 司法書士/弁護士/専門家の連携が鍵
どんなときに依頼すべきか(かんたん)不動産が複数ある、共有名義や抵当権が付いている、賃貸中の物件がある、故人が会社経営をしていた(許認可や株式・商業登記が絡む)など「財産が複雑」な場合は複数の専門家(司法書士、弁護士、税理士、場合により行政書士や社会保険労務士)が連携して対応するのが安全です。
主要な役割(ざっくり)
司法書士:不動産の登記(名義変更=相続登記)手続きの専門家。戸籍収集や登記申請の代理を行います。法務局提出用の書類作成や登記申請は司法書士に依頼すると手続きがスムーズ。
弁護士:権利関係に争いが伴う場合、法律論での代理(調停・審判)を行う。複雑な契約や会社の紛争に対応。
税理士:相続税の計算・申告、節税スキームの提案。相続税申告は期限(相続開始を知った日の翌日から10か月以内)に注意が必要。
なぜ「複数の専門家」が必要か(イメージ)不動産の名義変更(司法書士)を行う際、相続税の評価や申告(税理士)が必要になり、親族間の争いがあるなら弁護士が交渉・裁判を担当――という風に、役割が自然に分かれます。単独で行うよりも、連携したほうが抜け漏れや責任の分担が明確になります。
実務チェック(準備しておくもの)
不動産の登記事項証明書(登記簿謄本)・固定資産税の納税通知書。
会社なら商業登記簿謄本・株主名簿・決算書。
戸籍一式、遺産目録(一覧)を作成して持参。
6-3. 相続税申告を伴う場合 — 税理士がほぼ必須(期限とペナルティに注意)
いつ税理士を使うべきか(かんたん)遺産総額が相続税の基礎控除を超える可能性がある(あるいは税務申告の見込みがある)場合は、税理士に相談・依頼することをおすすめします。相続税は「申告期限が短い(原則10か月)」ため、専門的な評価や節税策の検討を早めに開始する必要があります。
税理士に頼む主な業務
相続税の試算・申告書作成・納税手続き。
不動産評価(小規模宅地等の特例など)、保険の取扱い、申告期限延長や分割納付の相談。
注意点(期限と対応)
申告期限(原則10か月)に間に合わなければ延滞税や加算税が発生することがあります。余裕をもって税理士に相談するのが安全です。
実務アドバイス
まずは試算を依頼して「申告が必要かどうか」を早期に判断。必要なら税理士と連携して評価や節税対策(小規模宅地の特例、配偶者の税額軽減など)を検討する。
6-4. 行政書士・司法書士・弁護士・税理士の役割(まとめと実務での使い分け)
以下は初心者でもぱっと見で分かるように「誰に何を頼むか」の早見表です。左=場面、右=頼む相手(主に)。
戸籍収集・遺産目録の整理/簡易な書類作成(相続同意書等) → 行政書士/司法書士(※裁判所提出書類や法律的高度判断は不可の場合あり)。
不動産の登記(名義変更) → 司法書士(登記申請の専門家)。司法書士は登記代理や登記に必要な戸籍収集を代行できます。
相続人間の争い・調停や訴訟対応 → 弁護士(裁判・調停の代理、法的アドバイス)。弁護士は裁判所提出書類の作成・代理等を行えます。
相続税の試算・申告・納税手続 → 税理士(相続税申告は専門性が高く、期限管理が重要)。
重要な法的制約・境界(見落としがち)
行政書士・税理士・司法書士は「裁判での代理権」は原則持たない(例外あり)。裁判所に提出する高度な書類作成・代理が必要な場合は弁護士が担当するのが原則です。つまり、争いがある段階で「書面だけ作ればいい」と考えると後で困ることがあります。
費用感の目安(相場)
司法書士に相続登記を一括で依頼すると、実費+報酬で数十万円〜(内容により増減)。遺産分割協議書の作成や相続手続の総合サポートでは、合計で数十万〜百万円超になることもあります(ケースによる)。見積りは必ず数件取って比較しましょう。
最後に:相談・依頼の前に用意しておくもの(実務チェックリスト)
被相続人の戸籍(出生〜死亡までの連続したもの)
相続人全員の戸籍・住民票・印鑑証明(必要な場合)
財産一覧(通帳のコピー、固定資産税通知書、登記事項証明書、車検証、保険証書、会社の書類等)
遺言書(あれば原本)や借用書などの証拠書類
相談したい「目的」を明確に(例:「葬儀費用を早く引き出したい」「不動産を長女に登記したい」「相続税の試算をしてほしい」「争いを法的に解決したい」等)
相談時には「やりたいこと」「期限(いつまでに必要か)」「相手(誰が反対しているか)」を最初に伝えると、専門家が最短で必要な手続きを整理してくれます。
7.相続同意書に関するよくある質問(FAQ)
以下は「初心者でもすぐ分かる」ことを最優先に、相続同意書について実務でよく聞かれる疑問を分かりやすく整理したFAQです。例え話や具体的な注意点も入れて解説します。必要なら、このまま使える短い雛形(テンプレ)も作りますので言ってくださいね。
Q1: 相続同意書があれば相続の全手続きは終わるのか?
短く答えると:いいえ。場合による。
詳しく:相続同意書は「特定の財産について、相続人全員がその扱いに同意した」ことを示す書面で、実務上とても役に立ちます(例:葬儀費用のために口座の一部を引き出す等)。しかし、相続の“全手続き”を自動的に終わらせる万能の書類ではありません。金融機関や役所・登記所が求める書類は相手先によって違い、預貯金の払戻しであっても戸籍類や印鑑証明の提出を求められることが普通です。
また、不動産の登記(名義変更)や会社株の移転など「第三者(登記所など)に対して権利関係を示す必要がある手続き」では、**通常は遺産分割協議書(場合によっては公正証書化)**が必要になります。相続同意書は“応急処置”や“限定された手続き”には使えますが、登記・恒久的な権利確定まではカバーしないことが多い点に注意が必要です。
例(イメージ)
葬儀費用を立て替えた長男が銀行から一時的に引き出す → 相続同意書+戸籍等で対応できる場合あり。
父の土地を自分名義に登記したい → 遺産分割協議書(+司法書士による登記申請)が通常必要。
Q2: 相続同意書は誰が作成するのか?(家族でも作れる?専門家が必要?)
短く答えると:誰でも作れますが、重要度に応じて専門家に頼むのが安全です。
詳しく:作成自体は家族の誰か(相続人の代表)がドラフトを作っても構いません。コンビニの雛形やネットのテンプレを利用して作る人も多いです。しかし、書き方や用語の微妙な差で後日トラブルになることがあるため、不動産や事業継承、相続税が絡む、高額財産がある、相続人間に温度差・不満がある場合は、行政書士・司法書士・弁護士など専門家に作成・チェックしてもらうのが実務的に安心です。専業の情報サイトでも作成手順や雛形が紹介されていますが、重要な局面では専門家の確認を推奨します。
実務的な分け方(目安)
軽微(葬儀費用の一時引出しなど) → 家族で作成+窓口で事前確認でOKな場合が多い。
重要(不動産・事業・高額資産・税務に影響) → 司法書士・税理士・弁護士に相談・依頼。
Q3: 相続同意書が不要な典型例は?
短く答えると:単独相続(相続人が1人)、有効な遺言がある場合、裁判所が関与する場合などです。
詳しく:
相続人が1人しかいない場合:相続人が1名だけであれば、その人が戸籍・印鑑証明等を持って手続きすれば、相続同意書自体は不要なことが多い(ただし金融機関の運用により追加書類が求められる場合あり)。
有効な遺言書がある場合:公正証書遺言などがあると、その遺言の内容に従って手続きが進み、相続同意書は不要または補助的になることが多い(遺言執行者がいる場合は執行者の手続きが優先)。
家庭裁判所が関与している場合(相続財産管理人等):裁判所が選任した相続財産管理人や遺産分割調停の決定がある場合は、裁判所の手続きに従うため、相続同意書の意味合いが薄れます。
注意:上のいずれも「原則として」の話です。各金融機関や役所・運輸局の運用に差があるため、窓口での確認が必須です。
Q4: 雛形を使う際に注意すべき点は?(テンプレ丸写しで大丈夫?)
短く答えると:テンプレは便利だが“そのまま丸写し”は危険。必ず内容を自分のケースに合わせてカスタマイズ・確認を。
詳しく:主な注意点と対処法
対象財産を特定する(曖昧表現はNG)
NG例:「預金全額を引き出す」だけでは銀行との齟齬が出ます。 → 必ず「△△銀行 △△支店 普通預金 口座番号0000000 のうち金○○円」などのように特定する。
署名・押印と印鑑証明の扱い
銀行は実印+印鑑証明の提出を求めることが多い(各行で要件が違う)。テンプレに署名欄を入れるだけでなく、印鑑証明の添付欄を明記しておくと実務でスムーズ。
追記事項(後日発見財産・税務処理)を想定しておく
「後日新たな財産が見つかった場合は再協議する」旨の条項を入れておくと紛争予防になる。
一方的に不利な条項を入れない
著しく一方に有利・他を拘束する条項(例:重大な権利放棄を強制するような文言)は、後に無効や取り消しの原因になり得る。必要なら弁護士のチェックを。
窓口(銀行・運輸局・所管庁)で受け入れてくれるか事前確認
同じテンプレでも窓口によっては「遺産分割協議書でないと不可」と言われることがあります。必ず事前に電話で確認する習慣をつけること。
テンプレを使うときの実務フロー(推奨)
ネットや書籍でテンプレを入手。
自分のケースに当てはめてドラフト作成(対象財産・金額・期日を具体化)。
相続人全員でドラフトを読み合わせ、署名押印する前に疑義をつぶす。
窓口に「この書類で受け付けますか?」と確認 → 追加で必要な添付書類を確認。
必要に応じて専門家にチェック依頼(特に不動産や税務が絡む場合)。
最後に:ワンポイント実務チェックリスト(その場で確認する項目)
誰が作る? → 相続人で作れるが重要案件は専門家へ。
どこに出す? → 銀行・運輸局・役所など、提出先によって必要書類が違う(窓口確認必須)。
何を書く? → 被相続人・相続人全員の特定、対象財産の詳細、分割方法、署名押印・印鑑証明。
何に注意? → 不動産登記等は遺産分割協議書が必要なことが多い(相続同意書だけで完了しない)。
8.まとめ
以下では、本記事で扱ってきたポイントを「初心者でも忘れない一枚のメモ」になるように平易にまとめます。長くならないように要点を押さえつつ、実務で役立つ具体的な行動案も最後に載せます。
相続同意書の役割と限界
相続同意書は「相続人全員が特定の財産についてその扱いに同意したことを示す便利な書面」です。
役割(得意なこと):葬儀費用のための一時的な預金払戻し、特定の車両や預金口座の一部処理など、限定的で短期的な手続きを速やかに進めるときに力を発揮します。窓口(銀行や行政)で「これで進めてよい」と認められれば即効性があります。
限界(苦手なこと):不動産の登記変更、会社株式の本格的な移転、相続税の処理といった長期的に権利関係を確定させる手続きでは不十分なことが多く、遺産分割協議書や公正証書、司法書士・税理士の関与が必要になるケースが多数あります。
例えると、相続同意書は「応急処置の同意書」。一方で遺産分割協議書は「最終的な所有図」を作るための契約書です。
遺産分割協議書との違いを理解することの重要性
相続同意書と遺産分割協議書は目的が違います。用途を間違えると、書類を作り直す羽目になったり、後で争いが発生したりします。実務上の使い分けは次の基準で考えると分かりやすいです。
財産の種類:
不動産・会社株・高額資産 → 原則「遺産分割協議書(公正証書化を検討)」。
預貯金の一時払戻し、小口の処理 → 相続同意書で対応できる場合が多い。
目的の長さ:
短期(応急)→ 相続同意書。
恒久的に権利を確定→ 遺産分割協議書。
第三者提示の必要性:
登記所や税務署など公式手続きで提示する必要がある書類は、遺産分割協議書が求められることが多い。
正しく使い分けることで「手続きが早く終わる」「後で揉めない」という二つの目的を両立できます。
専門家のサポートを活用するメリット
相続は「法律(権利)」「税務(お金)」「登記・行政手続き(形式)」が入り混じる分野です。専門家に頼むと次のメリットがあります。
リスク低減:誤記・形式不備・手続きミスを防げるため、後日の争い・やり直しを減らせます。
手続きのスピード化:戸籍収集や登記申請、税務申告などを代行してもらえるので、実務的に速く進みます。
節税や法的解決の提案:税理士は節税プランを、弁護士は争いがある場合の最適解を提示できます。
安心感:重要な資産が絡む場合、公正証書や登記といった「公式な終着点」を作ってもらえるので心配が減ります。
「いつ専門家に頼むか」はケース次第ですが、争いがある、高額資産がある、相続税が関わる、登記が必要、という場合は早めの相談をおすすめします。
実務で役立つワンページチェックリスト(今すぐできること)
手続きする“目的”を明確にする(葬儀費用・名義変更・事業継承など)。
被相続人の戸籍(出生→死亡の連続)を取り寄せる。
対象財産を具体的に特定する(銀行名・支店・口座番号/不動産の地番・登記簿情報/車の車台番号)。
事前に窓口へ確認する(銀行・運輸局・所管庁に「この書類で対応可能か」電話)。
相続人全員で合意し、署名押印(必要なら実印+印鑑証明)。
重要案件は専門家(司法書士・税理士・弁護士)へ相談。
~事例・比較分析紹介~
9.「相続同意書と遺産分割協議書の違い」実務比較調査
この記事は実務目線で「どの場面なら相続同意書で済むのか」「いつ遺産分割協議書(以下、協議書)でないとダメなのか」を整理し、主要な裁判例と現場の弁護士・実務家のコメントを踏まえて結論を出します。初心者でも分かるように、例え話や実務チェックリストを豊富に入れます。
まず結論(超かんたん)
短期的・限定的な手続き(例:葬儀費用の一時引出し、小口の処理など) → 相続同意書で対応できることが多い。 ただし金融機関や窓口によって扱いが分かれるので事前確認必須。
所有権の移転や公示(不動産登記、自動車登録、会社株の移転など)→ 原則として遺産分割協議書が必要(公的手続きの根拠として扱いやすい)。 特に相続登記では協議書が提出書類となることが多い。
以下で理由と裏付け(判例・実務コメント)、具体例、実務チェックリストを詳述します。
1) 「相続同意書」と「遺産分割協議書」の基本的な違い(仕組み/用途の違い)
相続同意書(部分同意):特定の財産(ある口座の払戻し・特定車両・許認可手続きなど)について「全員がその扱いを認める」ことを示す書面。用途を限定でき、スピード重視の場面で有用。だが第三者(登記所・税務署等)に対する“恒久的な権利確定”を示す書類としては弱い。
遺産分割協議書(包括同意):被相続人の遺産全体(あるいは主要部分)について、相続人全員が「誰が何を取得するか」を最終合意する書面。不動産の登記手続・第三者への提示に使われる正式書類で、(必要に応じて)公正証書化することでさらに効力が強くなる。
(例え)相続同意書は「冷蔵庫の中身だけ先に使っていいよ、という家族メモ」。協議書は「家の間取り図を確定して登記簿に載せるための最終契約書」。
2) どのような場面で「同意書」で済ませるか(実務パターン)
代表的ケースと実務上のポイント:
葬儀費用・当面の生活費の一時払い(預貯金の一部引出し)
家族で合意があれば相続同意書+戸籍・印鑑証明などを出して銀行が払戻しに応じるケースがある。
ただし2019年の相続法改正後は「遺産分割前でも一定額まで(計算式あり)、同一金融機関からは上限150万円まで単独で払戻しできる」といった制度が整備されており、銀行の扱いは法律と窓口運用の両方で確認する必要がある。
小額の特定財産の処理(例:故人名義の小口預金や車の一台)
相続人全員が合意していれば同意書で窓口処理が進む場合があるが、運輸局や登記所では協議書を求められることが多い。
事業許認可等の「実務的承継」
許認可の種類により(保健所・行政の裁量が強い分野など)同意書でも手続が進むことがあるが、許認可自体は所管庁の審査対象であり、単純な同意書だけで自動承継されるわけではない。所管庁確認が必須。
要点:同意書は「窓口が受け入れるかどうか」に強く依存する。事前に電話で必要書類と受け入れ可否を確認するのが実務の鉄則。
3) いつ「協議書」でなければならないか(不可欠な場面)
次の場合は協議書が原則必要、あるいは強く推奨されます。
不動産の相続登記:法務局の案内でも遺産分割協議書が登記申請の主要書類として挙げられている。登記は第三者対抗要件(公示力)を持たせる手続きなので、同意書だと受理されない/登記ができないことが多い。
会社株式や法人関連の名義変更:株主名簿の書換えや商業登記が必要な場合は協議書の方が扱いやすい。
高額財産・複雑な資産構成(抵当権付き不動産、共有物件、賃貸収入物件等):税務評価や権利関係で正確性が求められるため、協議書で確定するのが安全。
相続人間で利害対立があり、将来の争いを回避したい場面:協議書を公正証書化(公証役場)することで証拠力・執行力を高められる。
4) 裁判例から見る実務上の留意点(代表的判例の意味)
A. 最高裁(平成28年12月19日) — 預貯金は遺産分割の対象となると判断(判例の変更)
以前は「預貯金は可分債権であり、相続開始と同時に各相続人に法定相続分で帰属する」という従来の解釈がありました。最高裁は平成28年12月19日の決定でこの見解を変更し、預貯金も遺産分割の対象になり得ると示しました(事件は大法廷決定)。この判断は「預貯金だから自動で分かれる」という扱いが通用しなくなったことを意味し、実務上は預貯金についても協議や明確な書面が必要となる場面が増えています。
(実務的インパクト)
金融機関が「法定相続分で分かれる」として単純に扱うことが難しくなったため、相続人間の合意(協議書)や家庭裁判所の審判が事後に求められるケースが増える。その結果、相続同意書で簡易に処理できていたものが協議書や裁判の対象になることがあります。
B. 地方裁判例(当事者間の「覚書」「同意」が認められた例)
一方で、相続開始前に相続人同士で交わした覚書や合意が当事者間で有効と認められた事例もあります(東京地裁平成18年2月24日等の事例参照)。つまり、合意内容が不当・違法でない限り、当事者間の同意は裁判でも尊重される余地がある──ただし「第三者に対抗できるか(登記など)は別問題」になります。
解釈メモ:裁判例は「一律で同意書を否定/肯定」しているわけではなく、事案の事情(合意の内容、当事者の意図、第三者保護)に応じて判断されます。したがって実務では「合意の内容を明確に」「証拠を残す」ことが重要です。
5) 弁護士・行政書士など実務家のコメント(検証まとめ)
実務家は概ね次のように整理しています:
急ぐ小口の処理は相続同意書で対応し、その際は銀行等の窓口運用を事前確認すること。
不動産・会社・税務が絡むケースは協議書(公正証書化含む)を作るべきで、司法書士・税理士・弁護士に連携してもらうと安全。
最高裁判決(平成28年12月19日)以降、預貯金も遺産分割の対象になり得るので、安易に「預金だから同意書で済ませよう」とは考えない方が良い、という注意喚起が多い。
(出典例:法律事務所や税務・司法書士の解説コラム)
6) 実務的な判断フローチャート(現場で使える)
対象は何か?
預貯金(小額) → 同意書 or 法律に基づく払戻し制度(150万円上限)を検討。
不動産/登記が必要 → 協議書(公正証書化を推奨)。
会社株式・許認可 → 協議書+所管庁確認。
相続人間に対立はあるか?
ある → 弁護士介入を検討(交渉・調停・審判)。
ない → 同意書で手早く済ませるか、重要度によって協議書を選択。
第三者に提示する必要があるか?(登記所・税務署・運輸局等)
必要 → 協議書で確定(書式・添付書類を窓口で確認)。
7) 実務チェックリスト(作る前の必須確認)
銀行・運輸局・法務局など提出先に電話で必要書類と受け入れ可否を確認。窓口運用は各機関で異なる。
被相続人の戸籍(出生〜死亡の連続)を用意。相続人全員の戸籍・印鑑証明を揃える。
同意書にする場合は「対象を限定」して明記(銀行名・支店・口座番号・金額、不動産なら地番・登記簿情報など)。曖昧表現は避ける。
協議書にする場合は**分配の全体像(どの財産を誰が取得するか)**を書き、重要なら公正証書化を検討する。
8) 具体的な文例(要点だけ・比較)
相続同意書(抜粋・短文)
被相続人 ○○(死亡日:令和○年○月○日)名義の△△銀行△△支店 普通預金口座(口座番号0000000)より、葬儀費用として長男Aが金○○円を引き出すことに相続人全員が同意する。相続人署名・押印(実印)・印鑑証明添付。
遺産分割協議書(抜粋・要旨)
被相続人○○の遺産について、相続人全員は下記のとおり分配することに合意する。第1条 土地(所在:○○市△△、地番:□□)は相続人Bが取得する。第2条 預貯金(△△銀行△△支店 普通口座0000000)は相続人Cが取得する。必要書類:戸籍一式、相続人全員の印鑑証明。公正証書化する。
9) 最後に(実務的な推奨)
「まず窓口確認」:同意書で済むかは提出先次第。事前電話確認で無駄を減らす。
重要資産や登記を伴う手続きは協議書で確定。協議書を公正証書にすれば安全度が上がる。
最高裁判決(平成28年12月19日)以降は預貯金も“分割の対象になり得る”ので、軽く見ないこと。場合によっては協議や家庭裁判所の手続が必要になり得る。
参考(抜粋)
最高裁判所 判例(平成28年12月19日決定) — 預貯金が遺産分割の対象となる旨。
法務局「相続登記ガイドブック」/相続による所有権の登記に必要な書類 — 遺産分割協議書を登記申請書類として提示する旨。
全国銀行協会(解説資料)/相続預金の払戻し制度(上限150万円等のルール)。
10.金融機関・不動産登記における「相続同意書」の取扱い調査
(結論)
金融機関(銀行等):
「相続同意書」で一時的・限定的な払戻しが可能になるケースは多いが、銀行ごとに運用が異なる。戸籍・印鑑証明など追加書類を強く求められるのが通常。さらに、全国銀行協会の取りまとめでは「同一金融機関からの払戻しは上限150万円などのルール」が提示されています。
不動産登記(法務局):
不動産の相続登記は原則として「遺産分割協議書」を添付して申請する形が標準的です。相続同意書だけで登記まで済ませられるケースは非常に限定的(ほとんどない)と考えてよいでしょう。法務局のガイドでも遺産分割協議書の押印・印鑑証明の添付が明示されています。
以下で、具体的な銀行別運用の傾向、法務局(登記)側の扱い、現場での確認ポイントと実務上の注意点を詳しく解説します。
金融機関での扱い(銀行側の一般的運用と主要銀行の実例)
銀行の基本的な考え方(実務の枠組み)
銀行は「被相続人の預金は凍結される」→ 相続人の請求が来たら戸籍等で相続関係を確認し、提出書類に基づいて解約・払戻し等を行います。
「相続同意書」は相続人全員が特定の扱い(払戻し等)に同意していることを示す書面として実務で使われますが、銀行は自社の所定書式や追加の証明(印鑑証明・戸籍・通帳原本など)を求めることが多い点に注意。
(最も重要な実務ルール)全国銀行協会の整理:
相続開始後の遺産分割前における払戻しについては、家庭裁判所の手続きを経る場合と、金融機関による仮払い(同意書等の受入れ)を行う場合がある。同一金融機関からの払戻し上限が設けられている等、運用ルールが示されています(=扱いは制度化されているが金融機関の判断幅もある)。
主要行の実例(公式案内の要約)
三菱UFJ銀行:相続手続きの必要書類を明示。遺言・遺産分割協議書の有無により必要書類が変わる旨を案内しており、相続人全員の署名押印を求める場面がある。相続同意書的な合意があれば所定の相続届等で対応する流れ。
みずほ銀行:手続フローを公開(書類提出→払戻し等の手続)。必要書類を送付して処理する形で、窓口ごとに来店が必要な場合がある点を注意喚起。
三井住友銀行:当行所定の「相続に関する依頼書」や署名・実印の扱いを明示。払戻し希望の手続きは所定の書面で行う(=同意書を理由に簡易払戻しする運用はあるが、形式は各行所定)。
ゆうちょ銀行(日本郵政):戸籍の範囲等、細かい提出要件を案内。ゆうちょの手続では相続人の戸籍は不要な場合があるなど、取扱いに差がある。
要点:各行とも公式ページで「必要書類」や「相続手続フロー」を案内しているが、相続同意書をそのまま受け入れるか(=遺産分割協議書でなくても払戻しできるか)は、行ごと・支店ごと・ケースごとに変わる。事前確認が必須。
全国銀行協会が整理した「払戻しの制度」と上限ルール(ポイント解説)
全国銀行協会は相続預金の扱いについて参考資料やガイドを公開しており、家庭裁判所を通さない「仮払い」制度や、同一金融機関からの払戻し上限(150万円等)の考え方を示しています。つまり、法律上の「遺産分割確定前」であっても、一定のルールの下で金融機関が払戻しを行う仕組みが整備されています。
(例)150万円の上限ルールの考え方(要約)
同一金融機関(同一の金融機関の複数支店を含む)からの払戻しは、一定の計算式や上限が適用され、相続人の法定相続分や相続開始時の預金額を基に算定される運用が示されています。これは銀行側が不当に資産を流出させないための安全弁として機能します。
不動産登記(法務局)の取扱い — 「相続同意書」で登記できるか?
法務局の公式見解(登記申請手続ガイド)
法務局が公開している「相続登記(遺産分割協議編)」の案内では、遺産分割協議による相続登記の申請書には、遺産分割協議書を添付することが前提とされており、遺産分割協議書に押印のある相続人については印鑑証明書を添付する必要があるなど、形式面での要件が厳格に定められています。相続同意書のみで登記を済ませられるケースは想定されていません。
なぜ「遺産分割協議書」が必要なのか(やさしい説明)
登記は第三者に対する公示(公的な情報の更新)です。登記所は「誰が権利を持っているか」を公的に示すため、確定した分配を示す正式な書面(遺産分割協議書)が必要になります。相続同意書は当事者間の合意を示すに留まるため、第三者に対する公示力や証拠力が不十分と見なされることが多いのです。
銀行と法務局の扱いを並べて比較(実務上の使い分け早見表)
用途
銀行:一時払戻し/口座解約/特定の小口処理 → 相続同意書で対応可能なケース有(要確認)。
法務局(登記):不動産名義変更(相続登記) → 原則遺産分割協議書(同意書のみは不可が原則)。
求められる添付書類(概略)
銀行:戸籍一式、相続人の印鑑証明、通帳・通帳のコピー、(銀行所定の相続届や同意書)等。
登記所:戸籍一式、遺産分割協議書(各人の押印+印鑑証明)、登記原因証明情報、登記事項証明書等。
実務での具体的チェックリスト(窓口で必ず確認する質問)
銀行・法務局に行く前に、下の項目を電話で確認してから書類を作ると無駄が少なくなります。
提出先(支店)で「相続同意書」だけで払戻しできますか?(できる場合はどの書式を提出するか)
相続同意書に「実印押印+印鑑証明」が必要か?印鑑証明は発行から何か月以内か?(各行で期限が違う)
戸籍はどの範囲が必要か(出生→死亡の連続か等)?(ゆうちょ等は範囲が異なることがある)。
払戻しの上限や計算方法(金融機関の仮払いルール)を適用するかどうか?上限金額はいくらか?(全国銀行協会のガイドラインに基づく運用がある)。
不動産の登記申請では「相続同意書」では足りないか?遺産分割協議書の押印と印鑑証明は必要か?(法務局案内を確認)。
実務上の注意点・リスク(銀行で同意書を使うときの落とし穴)
「受け入れるかどうか」は窓口判断が大きい:支店の担当者や店舗の運用で扱いが変わることがあるため、同意書を作っても受け付けてもらえないリスクがある。事前に電話で「この書類でOKか」を確認すること。
同意の範囲を明確にすること:「対象口座・金額・用途(葬儀費用等)」を具体的に書かないと、後で解釈が分かれて争いになる。通帳・口座番号や金額を書いて限定する。
印鑑証明・実印の要否:銀行は実印+印鑑証明を要求することが多い(印鑑証明の有効期限指定あり)。法務局も協議書の押印に印鑑証明を要求する場合があり、形式不備で手続きが止まることがある。
実務的な提案(現場で失敗しないための具体ステップ)
最初にやること(電話1本):金融機関の担当窓口(口座のある支店)と法務局(登記を検討する役所)に電話して、今回の目的(例:葬儀費用として○円を払戻し)を伝え、「この書類で受け入れてくれるか」「必要書類の一覧」を確認。
書類作成のコツ:相続同意書を作るなら、(a)対象口座・金額を明記、(b)用途(葬儀費用等)を明記、(c)相続人全員の氏名・住所・続柄を列挙、(d)署名押印(実印)と印鑑証明添付欄を設ける。
重要案件は遺産分割協議書(公正証書化も)を検討:不動産登記や会社株の移転・相続税が絡む場合は、遺産分割協議書を作る(公正証書化すれば証拠力が高い)。法務局は遺産分割協議書を前提にしている点を忘れない。
専門家をどう使うか:戸籍収集や登記申請は司法書士、税務は税理士、争いがある場合は弁護士へ相談。ワンストップで進めたいなら、それぞれの専門家に初回相談をして「このケースならどの書面が必要か」を判断してもらうと安全。
まとめ(要点のチェックリスト)
銀行はケースによって相続同意書で払戻し可能だが、各行・各支店で運用が異なり、戸籍・印鑑証明等の提出を求められる。必ず事前に窓口確認を。
全国銀行協会のガイドラインでは**一定の仮払い制度や上限(例:150万円等)**が示されているため、単純に「同意書があればいくらでも出せる」とはならない。
不動産登記は原則「遺産分割協議書」が必要。相続同意書だけでは登記が受理されないのが通常で、法務局の案内を確認の上、協議書作成を準備すること。
11.相続同意書の無効リスクと裁判例分析
相続同意書(広義には遺産分割協議書を含む)は、実務では非常に重宝されますが、一度作ってしまうと取り消しが難しいという点を忘れてはいけません。本稿は「どのような事情で無効・取消しが認められやすいか」を裁判例と民法のルールに照らして整理し、実務で使える防御策(=無効リスクを下げる方法)を具体的に示します。
※以下は一般的な法的説明と実務アドバイスです。個別の事件性が強いケースでは弁護士に相談してください。
無効・取消しの法的根拠(やさしく)
相続同意書の効力を争うときによく使われる民法の規定は主に次のとおりです。
錯誤(民法95条):合意した側が「誤った事実認識のもとで合意した」場合、一定の要件を満たせば合意を取り消すことができます(改正により「取り消し」が基本)。ただし「重大な過失があった」場合は取消しできないなど要件が厳しい点に注意。
詐欺・強迫(民法96条):相手方の欺罔や脅迫によって同意させられた場合、取り消しを主張できます。これも立証責任(詐欺・強迫があったことを証明する責任)がある点に留意。
これらは「無効」ではなく「取り消し(取り消しを主張して初めて効果が生じる)」という扱いになることが多く、取り消しの可否や時効・対抗関係が実務上の争点になります(後述)。
裁判例から学ぶ:典型的に無効・取消しが認められた/否定された事情
ここでは代表的な裁判例・実務解説を取り上げ、「どんな事実があると裁判所がどう判断したか」を読み解きます。
1) 財産の重要な「抜け」があって錯誤(=合意時に重要事実を知らなかった)と認められ無効になった例
要点:協議書作成時に当該相続人が「協議書には被相続人のほとんど全部の財産が記載されている」と誤信して署名したが、実際には多額の預貯金や株式が記載漏れしていた──このような場合、合意を支えていた「前提(全体像)」が崩れ、錯誤に基づく取消し(当該合意は効力を失う)を認めた裁判例があります(東京地裁 平成27年4月22日判決など)。ポイントは「合意の基礎となる事実が重要に異なる」こと。
(判例解説のかんたん例え)「Aさんに家の中の家具すべてをあげる」と署名したら、実は屋根裏に高価な絵画が隠されていた――重要な財産が抜けていたら合意を覆せる可能性がある、というイメージです。
2) 「強迫・詐欺」で取り消しが認められるケース
要点:相続人が脅されて署名した、あるいは相手方が虚偽の重要説明をして合意を引き出した場合、民法96条に基づき取り消しを主張できます。ただし**立証(脅迫・欺罔があったこと)**は原則として取り消しを主張する側の負担です(証拠が必須)。司法実務は「どの程度の脅しや欺罔があったか、相手の行為と相手の信頼性を総合評価」して判断します。
3) 署名・押印があると「覆すのが難しい」判例群(実務上の重要ポイント)
要点:協議書に本人の署名・押印(実印)と印鑑証明が揃っている場合、裁判所は原則としてその合意が真正に成立したと推定します。後で「気づかないうちに押した」「だまされた」と主張して覆すためには、矛盾のない説得的な証拠(録音、メール、立会人の証言、捺印強要の具体的事実等)が必要です。多くの判例で、署名押印がある文書を覆すハードルの高さが示されています。
4) 代筆・偽造・印鑑不正利用で「無効・不存在」が認められた例
要点:署名や押印が偽造されている、あるいは本人の意思に反して他人が代理で押印したような場合、偽造を証明できれば遺産分割協議の不存在(無効)を認めさせることができます。実際、印鑑や印鑑証明を勝手に送り付けられた、あるいは実印を無断使用された事案で不成立が認められた例があります(代行署名が問題となった古い判例等)。ただし偽造の立証も専門的で、筆跡鑑定や郵便記録等の証拠が必要になることが多いです。
裁判実務上の『よくある争点』と裁判所が注目するポイント
当日の事情(会議の流れ・議事録・出席状況)
当事者が協議に参加していたか、暫定案が配られていたか、読み上げがあったか等を重視します。これらは合意の真偽を判断する重要証拠になります。
合意時の「情報の公平性」
重要財産が一方に隠されていなかったか(情報に显著な非対称がなかったか)が争点になります。重要財産の隠匿が証明されれば錯誤で取り消せる余地がある。
署名・押印の有無および印鑑証明の添付
実印+印鑑証明が揃うと裁判での信用力は格段に上がります。押印がない・署名のみの場合は、登記や第三者対抗の面で追加措置(裁判所の判決で代替)を求められることがあります。
立証責任
無効・取消しを主張する側が、詐欺・強迫・錯誤などの事実を立証する必要があります(単なる「言った・言わない」では足りない)。そのため初期段階での**証拠保全(メール、録音、証人メモ、通帳の出金履歴、郵便記録)**が極めて重要です。
実務家の視点:裁判例が示す「現場ルール」まとめ(結論的教訓)
署名押印は“重い”:実印+印鑑証明が付された合意は裁判で覆しにくい。署名を求められたら内容をよく確認・記録すること。
「知らなかった」は万能の言い訳ではない:重要な財産情報を知らなかった場合に取り消せるケースがある一方で、当該相続人の調査義務・過失が認められると取消しが退けられることもあります(過失の有無が鍵)。
詐欺・強迫を立証するのは難しい:だが、立証できれば取り消しが可能。証拠は早めに保存すること。
無効リスクを下げるための実務チェックリスト(すぐ使える)
署名する前に「財産目録」を相互に作成・配布する
銀行通帳のコピー、証券の明細、不動産登記簿のコピーなどを一覧に。重要財産の漏れを防ぐ。
署名は必ず自分で行い、実印+印鑑証明を添付する(可能な限り)
実印+印鑑証明は証拠力を高めます。金融機関や法務局も求めることがあります。
会議の議事録・メール記録・立会人(第三者)を残す
「いつ・誰が・どこで・何を言ったか」を記録すれば、後で「強制された」などの主張を退けやすくなる。
可能なら「公正証書化」を検討する(争いの可能性がある重要案件)
公正証書にすれば私文書より証明力が高く、執行力の付与や実効性の面で大きなメリットがある(相続トラブルの予防に有効)。
疑わしい場合はその場で署名を拒否し、専門家に相談する
「急いで押して」「今渡さないとまずい」といった強い急かしは危険信号。銀行・法務局への事前確認や弁護士相談を。
偽造や無断押印の可能性がある場合は書類の閲覧謄写を請求する(銀行・法務局)
不審な移転や払い戻しがあった場合、早めに閲覧請求・証拠保全を。裁判での不存在確認手続につなげられます。
「争う」と決めた後の実務的ステップ(典型的フロー)
証拠を集める(通帳記録、メール、議事録、立会人の連絡先、郵便記録、録音など)。
銀行・法務局に提出された書類の閲覧謄写請求を行う(不正を疑うとき)。
弁護士に相談 → 必要なら仮差押え・仮処分等の保全処置を検討(財産流出を防ぐ)。
訴訟(不存在確認・取消し請求・不当利得返還請求等)を提起。取消権の行使期間(詐欺・強迫は時効に注意)を確認する(民法上、取消し権の行使期間に関する規定あり)。
最後に:実務的「ワンページ備忘メモ」
署名・押印は簡単にしてはいけない。一度押印すれば、裁判で覆すのは相当な証拠負担になる。
情報の抜け(重要財産の隠匿)が後で発覚したら、錯誤取消しが認められる可能性がある(ただし過失の有無を厳しく見られる)。
詐欺や強迫は取り消し事由になるが、立証が鍵。録音・メール・目撃者などの証拠は早めに確保を。
重要案件は公正証書化が費用対効果で有利なことが多い(証明力・執行性の向上)。
「預貯金も遺産分割の対象になり得る」という最高裁判決以降、預貯金の扱いでも争点化が増えている(合意内容の正確な把握が重要)。
12.相続同意書の書式 — 実務バリエーション調査
相続同意書は「書式がひとつだけ」ではなく、 用途(銀行向け/登記手続き/許認可など)・作成者(行政書士/弁護士/自治体窓口)・提出先の運用 によって実務的なフォーマットや必須項目が変わります。以下では、現場で見られる代表的な書式の違いを整理し、必須条項・任意条項を具体的な文例とともに示します。初心者でもわかるように、専門用語は注釈付きで解説します。
注意:以下は実務的ガイドです。最終的な法的判断や重要資産の処理については弁護士・司法書士等の専門家に相談してください。
実務書式の「作成元」別の特徴比較(行政書士/弁護士/自治体窓口)
行政書士が提示する書式:実務的・提出書類のチェック重視
主な特徴:テンプレの可搬性が高く、銀行・役所向けに使える簡便型を多数用意。添付書類チェックリスト(戸籍・印鑑証明・通帳コピーなど)を必ず付ける。
強調点:提出先の「窓口で通りやすい」実務的な記載(口座番号や車台番号などの細部特定)を重視。
向く場面:葬儀費用の払戻し、口座の一部引出し、車の名義手続きの事前準備など。
弁護士が作る書式:法的安全性・紛争予防を重視
主な特徴:取り消しリスクや遺留分問題等のリーガルチェックが入った文面(錯誤・強迫の否定条項、追認条項、将来紛争が起きたときの救済条項など)を含める。公正証書化の助言や「執行力」を持たせる文言の提案をすることが多い。
強調点:後日争いになったときの対策(証拠力・執行力)を中心に作成。
向く場面:高額資産、不動産・事業承継、相続人間で温度差があるケース。
自治体(市役所・区役所)の窓口に置かれる書式:簡潔・手続き特化型
主な特徴:各自治体の相談窓口や保健所などが配布する雛形は、住民にわかりやすく簡潔。許認可(保健所の届出等)向けに必要最小限の記載を求めることが多い。
強調点:行政手続きに必要な要素(代表者の氏名、営業所、許認可番号など)だけに絞る。
向く場面:事業許認可の承継届出、生活支援的な窓口対応。
書式収集から見える「傾向まとめ」
銀行向けテンプレは「対象を限定的に特定」する(支店名・口座番号・金額・用途を明示)。
登記対応のテンプレ(司法書士作成)は、遺産分割協議書に近い厳格な様式を採る(各人の実印押印+印鑑証明添付) — ※登記では通常「相続同意書のみ」では不可。
法的リスクが懸念されるケースは弁護士フォーマットで作るのが安心(取消し・詐欺主張への耐性を高める)。
相続同意書における「必須条項」とその意味(初心者向け解説)
下はどのような用途でも最低限入れておくべき項目です。文言例(やさしい日本語)と注意点を付けます。
必須項目(必ず書くべき)
書類名(タイトル)例:相続同意書 または 相続財産承継同意書→ 一目で目的がわかるタイトルを。
被相続人の特定情報(誰の財産か)例:被相続人:山田太郎(昭和XX年X月X日生/令和X年X月X日死亡) 住所:東京都○○区○○→ 戸籍で照合できる情報を必ず入れる。
相続人全員の氏名・住所・続柄(全員分)例:相続人(全員) として一覧化。→ 相続人の漏れがあると無効や追加手続きの原因。
対象財産の特定(できるだけ詳細に)
預金:銀行名・支店・口座番号・払戻し希望額
不動産:所在・地番・地目・登記簿記載の所有者
車両:車名・車台番号・車検証コピー添付例:△△銀行 △△支店 普通口座 口座番号 1234567 のうち金100万円を…→ 「預金全体」と曖昧に書かない。
合意内容(何を誰がいつするか)例:上記預金から葬儀費用として長男・山田一郎が金100万円を引き出すことに相続人全員が同意する。→ 「いつ」「誰が」「何を」を明確に。
署名押印(相続人全員)
実印を推奨、金融機関で実印+印鑑証明を求められることが多い。
署名(自筆)+押印(印影)があると証拠力が高い。
作成年月日・作成場所いつ作ったかを明記。後の時系列判断に重要。
添付書類一覧例:戸籍謄本、除籍、住民票、印鑑証明、通帳コピー、車検証コピーなど。
任意条項(使えると実務で便利な文言)
任意条項は「将来の揉め事を減らす」「手続をスムーズにする」ために入れておくと良い項目です。必要に応じて挿入します。
代表的な任意条項とサンプル文言
追加財産発見時の再協議条項(追記事項)
追記事項: 本同意書に記載のない財産が後日発見された場合、相続人全員は誠実に協議の上、別途協議書を作成するものとする。
代償金・清算方法の定め
代償金条項: 上記不動産を取得する相続人は、他の相続人に対して令和X年Y月Z日までに金○○円を支払うものとする。
費用負担(登記費用・税金負担の決め方)
費用負担: 本件名義変更に要する登記費用及び税金は、取得者が負担する。
撤回不可・確認条項(合理的範囲で)
確認条項: 本同意書は相続人全員の自発的意思に基づき作成されたものであり、詐欺・強迫その他重大な事情がない限り一方的に撤回しないことを確認する。
注:極端に拘束的な文言は公序良俗や法的均衡で問題になり得るため、弁護士チェック推奨。
証人・立会人欄(証拠力向上)
第三者の署名(2名程度)を入れると、後日の争いで合意の存在を補強できる。
紛争解決・管轄条項
本書に関して紛争が生じた場合、○○地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。
公正証書化に関する記載(予定がある場合)
本協議は必要に応じ公証人役場において公正証書とすることができる。
実務で使える「書式バリエーション」雛形(コピペ可・実務例)
以下は用途別にそのまま使える(あるいは項目を入れ替えるだけで使える)日本語の実務テンプレ例です。必ず提出先に合わせて調整してください。
テンプレA:最小限・銀行向け(葬儀費用や一時払戻し用)
相続同意書
被相続人: 山田 太郎(死亡日:令和X年X月X日)
対象口座: △△銀行 △△支店 普通預金 口座番号 1234567(残高見込み:概算 ○○円)
同意内容:
被相続人名義の上記口座について、下記相続人全員は、葬儀費用の支払いとして長男 山田一郎(住所:東京都○○区○○)が金○○円を上記口座から引き出すことに同意する。
相続人(記入・署名押印)
1. 氏名:山田一郎 住所:〒 署名: 押印(実印):
2. 氏名:山田花子 住所:〒 署名: 押印(実印):
(以下必要に応じて続ける)
作成日:令和X年X月X日
添付書類:被相続人の戸籍謄本(出生〜死亡の連続)、相続人全員の戸籍、相続人全員の印鑑証明(各1通)、通帳の写し
ポイント:銀行によっては実印+印鑑証明を必須とします。事前に支店確認を。
テンプレB:標準型(複数の財産を列挙、一般利用)
相続同意書(相続財産承継同意書)
被相続人:□□ □□(死亡日:令和X年X月X日)
相続人一覧:氏名・住所・続柄を列挙
第1条(対象財産)
以下に掲げる財産について、相続人全員は下記のとおり承継することに同意する。
1. △△銀行 △△支店 普通預金 口座番号 1234567(対象金額:金○○円)
2. 不動産(所在:○○市△△、地番:000-00、登記簿写し添付)
3. 自動車(車名:□□、車台番号:XXXXXXXXXXXXX、車検証添付)
第2条(承継方法)
1. 不動産は長女 ○○が取得する。
2. 上記預金は長男 △△が取得する。
3. 自動車は次男 ◇◇が取得する。
第3条(代償金等)
不動産取得者は他の相続人に対し金○○円を令和X年X月X日までに支払う。
署名押印欄(相続人全員)
作成日:
添付書類:
ポイント:この型は汎用性が高いですが、不動産登記に用いるなら公正証書化や司法書士チェックを推奨。
テンプレC:詳細型(紛争予防・将来条項あり/弁護士向け)
相続同意書(完全版)
被相続人:...
相続人一覧:...
第1条(目的)
本同意書は、被相続人の遺産について、相続人全員が合意した承継関係を明確にするために作成する。
第2条(対象財産・承継)
(具体的に列挙)
第3条(追記事項)
1. 本同意書に記載のない財産が発見された場合、相続人全員は速やかに協議し、別紙にて定めるものとする。
第4条(解除・取消し)
1. 本同意書は相続人全員の自主的な合意に基づくものであり、詐欺・強迫があった場合を除き、一方的な撤回は認められない。
2. 本同意書の効力に争いがある場合は、当事者間で協議のうえ解決を図るものとし、解決しない場合は○○地方裁判所の専属的合意管轄とする。
第5条(公正証書化)
1. 相続人全員は、本同意書を公証人役場において公正証書とするために誠実に協力する。
署名押印(実印)・証人署名・添付書類一覧
ポイント:争いの予想がある場合に有効。法的に強い文言や救済規定は弁護士による最終チェックを。
実務的な「書式作成時の細かい注意点」一覧
対象の特定は可能な限り詳細に(銀行名・支店・口座番号、不動産は地番・地目、車は車台番号)。
押印は実印が望ましい:金融機関や登記所が印鑑証明を求めることを考慮。
原本は保管:提出先で写しを求められる場合が多いので、原本は必ず各自で保管。
証人・立会人をつけると良い:親族以外の立会証人2名の署名が後日の証拠になる。
余白・改行の扱い:追加の書き込みは紛争の元。変更が必要なら「追記欄」を使い、追記の都度全員の署名押印を。
複数部作成:提出先用+相続人各自保管用を用意(原則、正本1通+謄本数通)。
提出前の窓口確認:最重要。銀行・運輸局・法務局で書式や添付書類の受け入れ要件が異なるため、事前に所管窓口へ電話または来訪して確認。
よくある間違い(&防止策)
「曖昧な対象記載」 → 明確化:支店名・口座番号などを必ず書く。
「印鑑証明を用意していない」 → 事前に印鑑証明を取得(有効期限指定あり)。
「相続人の漏れ」 → 戸籍で相続人を完全に確認。
「口頭だけで済ませた」 → 必ず書面化。議事録+署名で。
「一方的に作って押印を求める」 → 合意プロセス(説明・議事録・立会い)を踏む。
最後に:実務チェックリスト(書式作成〜提出まで)
書式の用途(銀行/登記/許認可)を決める。
提出先へ電話で「この書式で受け入れますか?」と確認(必要書類の一覧を入手)。
被相続人の戸籍(出生〜死亡)と相続人の戸籍・印鑑証明を揃える。
書面(ドラフト)を相続人全員で読み合わせ、疑義はその場で解消。
実印で全員押印、印鑑証明を添付。証人がいれば証人署名も。
提出後は控え(受領印)を全員で保管。
13.家族間トラブル予防としての「相続同意書」活用事例調査
相続は法律の話であると同時に、人間関係の“感情地雷”が多数埋まっている場面でもあります。相続同意書は「言った・言わない」の争いを減らし、手続きをスムーズにするための道具です。ただし万能ではなく、使い方次第でトラブルを防げる場合と防げない場合があります。ここでは実務的な活用事例を多く集め、どのような場面で有効だったのか、逆に失敗した例は何が原因かを具体的に整理します。初心者にもわかるように、専門用語は補足説明を付けて解説します。
相続同意書がトラブル予防に有効な“典型ケース”
葬儀費用・当面の生活費の一時払戻し
事例:亡父の預金口座が凍結されているため、葬儀費用を長男が負担。兄弟全員が「葬儀費用として○○円を長男が引き出すことに同意する」と書面化して銀行に提出 → 銀行が払戻しに応じ、速やかに葬儀を執行。
なぜ有効か:目的が短期・限定的で、利害が明確。相続人全員の署名があれば金融機関も受け入れやすい。
防止できるトラブル:払戻しを巡る後日の「誰が勝手に使ったのか」という疑念。書面があれば出金の正当性を示せる。
特定財産の承継を先に決めて手続を進める場合(小口資産・動産など)
事例:祖母の動産(家具や収集品)を長女が継承する代わりに、金銭的見合いを別途行う旨を合意書に明記して引取・精算を実行。
なぜ有効か:物理的に移転しやすく、第三者への公示力を要しない資産は書面で合意すれば実務上スムーズ。
防止できるトラブル:「隠れて持ち出した」「勝手に処分した」という誤解。
不動産は最終決定前に“暫定的な使用ルール”を決めるケース
事例:相続手続きが長引く間に、相続人の一人が実家で生活する必要があるため「当面の居住と光熱費の負担に関する同意書」を作成。
なぜ有効か:不動産の最終的配分は遺産分割協議で決めるとしても、日常的な迷惑は同意書で回避可能。
防止できるトラブル:居住権・費用負担を巡る口論。
事業継承で許認可や取引先への説明を要する場合の同意作成
事例:個人事業を家族に引き継ぐ際、所管行政に「相続人全員が承継に同意している」ことを示す同意書を提出→行政側が手続きを許容するケース。
なぜ有効か:行政は「誰が事業を引き継ぐか」を確認したがるため、相続人の同意を示す書面は実務上有効。
防止できるトラブル:後で「本人は反対していた」と言われるリスク。
代償分割(不動産を特定の相続人が取得し、金銭で他の相続人を精算)を先に合意しておくケース
事例:土地を長男が取得し、長女らへ代償金を支払う旨を同意書で明記。代償金の支払期日や方法を明記して実行。
なぜ有効か:支払期日・方法が明確だと「取得者が支払わない」という将来の争いを減らせる。
防止できるトラブル:代償金不払いによる訴訟の未然防止。
「同意書でトラブルを未然に防げた」具体的な成功ケース(物語で)
成功ケースA:葬儀費用の速やかな払戻しで家族間の不信を回避兄妹4人で合意書を作り、長男が葬儀費用を銀行から引出。引出し後、全員で合意書の写しを保管し、支出明細を共有したことで「誰が使ったか」問題が残らず、葬儀後の遺産分割に集中できた。
成功ケースB:家(不動産)を一人が継承し、代償金を期日通り支払って和解車検証・登記事項を含めた明細を添付した合意書で、代償金支払の手続を銀行決済(エスクロー)で管理。支払が記録に残る形にしたため、後日の争いが発生しなかった。
成功ケースC:個人商店の引継ぎで従業員と取引先の不安を消した相続人全員の署名押印がある承継同意書を所管保健所に提出。保健所が営業継続を認めたため、従業員離職や取引停止を防げた。
成功ケースに共通するポイントは「合意内容が具体的」「署名押印が揃っている」「証拠(通帳コピー・登記簿・車検証など)を添付している」「支払や手続の具体フローが決まっている」ことです。
「同意書でもトラブルを防げなかった」失敗ケースと原因分析
失敗ケースA:重要財産(預金・株式)が後で見つかり、合意内容が覆された
状況:相続同意書は作成したが、被相続人の別口座や証券口座が発見され、合意時にはその情報が共有されていなかった。発見した相続人が「重大な事実の錯誤」を理由に合意の取消しを請求。
原因分析:財産目録の不十分さ・情報の非対称。合意が「全財産を把握した上での合意」と思われる場合、後日の発見は合意の取消し事由となり得る。
教訓:財産は可能な限り網羅的に洗い出し、合意書に「追記事項(新財産が出たときの扱い)」を入れておく。
失敗ケースB:署名がそろっているが、強迫や誤認が争点になった
状況:兄の家庭内で「早く書いてくれ」と急かされ、同意書に署名押印したが後に「脅されて押した」と訴えられた。裁判で強迫の有無が争点となり、関係が悪化。
原因分析:合意時の場の雰囲気や意思表示の自由が疑われた。証拠(議事録・録音・第三者立会)がなかったため、立証が難航。
教訓:署名前に個別の確認、第三者の立会い(証人)や議事録作成を行う。
失敗ケースC:書式・要件が不十分で金融機関や登記所に受理されず、その後争い発生
状況:家族が自作した同意書を銀行に持って行ったが、銀行が印鑑証明を要求。印鑑証明が用意できておらず、手続きが止まる。別の相続人が不満を募らせ争いに発展。
原因分析:提出先の要件を事前に確認していなかった。
教訓:窓口(銀行・法務局・役所)に事前確認を行い、必要書類を揃える。
失敗ケースD:遺留分を侵害する合意で、除外可能性が生まれた
状況:相続人の一部が合意で特定相続人に有利に分配し、他の相続人(甥姪など)に遺留分的権利があった場合に後で争われた。
原因分析:遺留分・法律上の保護権利を考慮せず合意。
教訓:遺留分など法的保護範囲を確認。重大な権利放棄を伴う合意は弁護士のチェックを受ける。
失敗ケースに共通する点は「情報不足」「手続要件の不確認」「合意時の状況記録不足」「法的保護範囲の無理解」です。これらは事前準備でかなり減らせます。
実務で“トラブルを未然に防ぐ”ための具体的ルール(チェックリスト)
最初に全相続人で財産リスト(財産目録)を作る
銀行口座、証券、保険、年金、貸金庫、不動産、車、負債(ローン等)を網羅的に。
補足:「見つけにくい財産(名義預金、退職金、貸金庫など)も調べる」
同意書は具体的に書く(限定・特定)
「預金全額」ではなく「△△銀行△△支店 普通預金 口座番号○○のうち金○○円」など。
「不動産は地番で特定」「車は車台番号で特定」。
署名押印は必ず各自で行い、可能なら実印+印鑑証明を添付する
金融機関や登記手続きで求められることがあるため、事前に揃えておく。
補足:印鑑証明は発行日から有効期間(銀行による)に注意。
議事録・メール・録音など、合意に至るプロセスの証拠を残す
家族会議の議事録を作成し、出席者に配布して同意のメール返信をもらうと効果的。
補足:録音については同意の要否や地域の法規を確認(当事者録音は原則可能だが念のため確認)。
追記事項(新財産発見時の再協議)・代償金の支払方法・デフォルト条項を入れる
「後日発見された財産は速やかに協議する」「代償金が未払なら登記抹消手続きを保留できる」等。
補足:エスクロー(第三者管理)を使うと安全。
第三者証人または公正証書を活用
証人(親族以外)2名の署名を入れるだけでも後日の証拠力が増す。重要案件では公証役場による公正証書化を検討。
補足:公正証書は証拠力・執行力が高まる(費用はかかるが安心度がアップ)。
窓口(銀行・法務局・所管行政)へ事前確認を行う
提出予定の同意書で受理するか、どの書式や添付書類が必要かを電話で確認。書式や要件は機関ごとに違う。
税務上の影響を税理士に相談
代償分割や相続税の評価が絡む場合、事前の税理士相談で節税の検討や申告漏れ防止。
使える「同意書」雛形(短め) — そのまま使える骨子(要カスタマイズ)
以下は現場で良く使われる2種類の簡易雛形。実務で使う前に「対象」(口座番号等)や「署名欄」を埋めて、窓口確認をしてください。
A:葬儀費用等の一時払戻し用 同意書(サンプル)
相続同意書
被相続人:○○ ○○(死亡日:令和○年○月○日)
対象口座:△△銀行 △△支店 普通預金 口座番号:□□□□□□
同意内容:被相続人名義の上記口座から、葬儀費用として金○○円を長男 ○○ ○○が引き出すことに、下記相続人全員が同意する。
相続人(署名・押印)
1. 氏名:○○ ○○ 住所: 署名: 押印(実印):
2. 氏名:△△ △△ 住所: 署名: 押印(実印):
(以下略)
作成日:令和○年○月○日
添付:被相続人戸籍(除籍)写し、相続人全員の印鑑証明(各1通)、通帳の写し
B:代償金付・特定不動産承継の合意(サンプル骨子)
相続同意書(代償分割に関する合意)
被相続人:○○ ○○(死亡日:令和○年○月○日)
対象不動産:所在 ○○市△△町、地番 000-00(登記簿写し添付)
合意内容:
1. 上記不動産は相続人A(氏名)に帰属する。
2. Aは、他の相続人B・Cに対し合計金額金○○円を、令和○年○月○日までに下記口座へ振込により支払う。
3. 上記支払が完了した時点で、相続人全員は本件に関する他の一切の請求をしないことに同意する(ただし後日新財産が発見された場合は追記事項に従い再協議する)。
相続人(署名押印):
作成日:
添付:登記事項証明書、戸籍一式、相続人の印鑑証明等
※上記はテンプレの骨子です。重要な不動産や高額金銭が絡む場合は弁護士・司法書士のチェックを強く推奨します。
家族で使うときのコミュニケーションのコツ(“やさしい実践法”)
まずは「目的」を共有する:「誰を困らせないか」「今何を優先するか」から始めると感情的対立を避けやすい。
会議は記録する:参加者・日時・合意内容を短い議事録にして参加者に送る。後で「聞いてない」となるリスクを低くする。
疑問がある人には時間を与える:署名を急がせない。即答できない人がいれば個別に説明し、質問を受け付ける。
中立的な第三者を入れる:事情説明が難しい場合、行政書士や信頼できる親族・友人を立会人にすると安心感が増す。
金銭は記録を残して渡す:現金の手渡しは避け、振込やエスクローを使う。領収書や振込明細は必ず保管。
結論:相続同意書は「トラブル予防の強力な道具」だが“使い方”が全て
相続同意書は、形式さえ整えば家族間トラブルをかなり減らしてくれます。とくに「限定的な処理」「明確に特定できる財産」「支払や手続の具体的ルールが決まっている」場面では高い効果を発揮します。一方で、情報不足・不十分な形式・合意手続きの雑さ・法的保護権利(遺留分や相続放棄手続)を無視すると、逆に争いの種になることもあります。
ポイントは次の3点です:
情報を揃える(財産目録)。
合意を明確・限定的に書く(特定・期日・方法)。
署名押印・証拠を残す(議事録・証人・公正証書の検討)+提出先の要件確認。
14.海外と日本の「相続同意書」比較調査
相続同意書は国によって呼び方や役割、法的な位置づけがかなり違います。ここでは「米国(州ごとの差が大きい)」「英国/EU(共通ルールと国別の差)」「日本」の順に、実務で使われる代表的な文書・制度と、相続人間の合意(=当事者同士でどう文書化しているか)を比較します。初心者の方にも分かるように、具体例・注意点・実務上の“使える知恵”を盛り込みます。
全体の要点(先に結論)
米国:州ごとに手続は大きく異なるが、裁判(probate)を避けるために「TOD(transfer-on-death)」「POD(payable-on-death)」「信託(trust)」「共同名義(joint tenancy)」など“遺言以外の器”が発達している。相続人同士の合意は「family settlement agreement」など契約形式でまとめられることが多い(州法での有効性が変わる)。
英国(イングランド等)/EU大陸法圏:英国は「Deed of Variation(遺産配分の変更)」など、相続発生後に受取人が合意で分配を変える制度が整っている。EU(Brussels IV=Reg.650/2012)は加盟国間の手続きを整理し、居住地法の原則や「選択条項(choice of law)」を認める。大陸法国(例:フランス)は“forced heirship(遺留的相続)”の制約が強く、当事者間合意でも法定の保護(reserved heirs)を超えることは難しい場合がある。
日本:一般に使われるのは「遺産分割協議書」と「相続同意書(実務上の名称)」で、不動産登記や第三者提出を前提とする手続きでは遺産分割協議書が実務上の中心。さらに「遺留分(法的に保護された最低受取分)」がある点で、完全な自由分配は制約される。
1) 米国の実務 —— probate と「遺言以外の器(TOD/POD/Trust)」、家族合意(Family Settlement Agreement)
どういう仕組みがあるか(わかりやすく)米国では「遺言を家庭裁判所で検認して財産を移転する(probate)」が基本プロセスですが、口座の受取人指定(POD)や不動産のTransfer-on-Death(TOD)など、遺言 probate を経ずに移転できる手段が多く使われます。これらは被相続人が生前に受取人を指定しておく仕組みで、死後に自動で移転されることが特徴です(ただし州法差・登記要件あり)。
相続人同士の合意の文書化(Family Settlement Agreement)相続人間の合意は「family settlement agreement」や単に「settlement agreement」と呼ばれる契約書でまとめられます。この合意は当事者間で署名すれば契約として強力だが、効力は州法や事案事情(詐欺・強迫の有無、未成年者の関与など)によって左右されます。テキサスなどでは明文化された制度的支援があり、合意がそのまま執行力を持つケースもあります。一方で、合意が被相続人の死亡前に作られた場合や、法的に未成熟な当事者が含まれる場合などは無効となるリスクもあります。
実務上のポイント(教訓)「TODで不動産を移すと登記手続が省略できる」「trustで財産管理と移転を細かく制御できるが形式が必要」「family settlement は便利だが州法ごとの差を確認する」──これらは米国実務でよく出る結論です。TODが使える州か、trustが適切か、合意を裁判所に提出して効果を確保するかは実務的に弁護士に相談すべきポイントです。
2) 英国の実務 —— Deed of Variation(遺産配分の事後変更)と手続の柔軟性
仕組みの概要(やさしく)英国では、受益者(相続で得る人)が全員の合意のもとで遺産の配分を変更する「Deed of Variation(変更証書)」が一般的に使える制度です。要するに「遺言/法定相続で決まった配分を、遺産発生後に当事者間の合意で書き換える」ことができます。税務(Inheritance Tax)上の扱いを含めた要件(通常は2年以内の手続など)も定められています。
合意形成の実務例たとえば「Aさんは相続で家を丸ごと取得するが、B・Cには代わりに金銭を振り込む」といった合意をDeed of Variationでまとめれば、税・相続の扱いを“元の被相続人が行ったものと同視”して処理できる場合があります(税対策や世代間移転に有効)。合意書は署名・証人などの形式を満たすことが重要です。
実務上の注意点Deed of Variationは強力なツールですが、全ての当事者の自由意思が前提であり、未成年者や判断能力のない人の利害を不当に害する合意は難しい点に注意。税務的効果もあるため、実務では弁護士・税理士の連携が一般的です。
3) EU(大陸法)諸国 —— 強い「遺留的相続(forced heirship)」とBrussels IV(Reg.650/2012)
大陸法の特徴(初見の人向け)フランスやスペイン、ドイツなど大陸法圏では、被相続人の「遺言の自由」が英米ほど広くなく、一定の親族(子や配偶者等)に最低限の取り分(reserved share/遺留分)が法律で保障されている国が多い(forced heirship)。つまり当事者同士が「全部別の人にあげる」と合意しても、法定保護を侵す部分は争われやすい。
欧州横断的ルール(Brussels IV / Regulation 650/2012)EUは2012年に相続に関する国際規則(通称Brussels IV)を採用し、加盟国間でどの国の法が適用されるか・どこで手続きをするかを整理しています。原則は「被相続人の通常居住地(habitual residence)」の法が適用されますが、本人が自国法を選べる(choice of law)オプションもあります。これにより、たとえばフランスに不動産があるが被相続人が英国国籍で英国法を選んでいれば、適用法が変わる可能性が生じます(ただし強制相続の問題は複雑)。
実務での合意形成の扱い大陸法圏でも相続人間の合意(family settlement)はあり得ますが、法定の保護(reserved share)が優先されるため、合意で完全に排除できない場合が多い点に注意が必要です。国によっては合意を公的に認証する手続き(公証)を経ることで効力を強めることができます。
4) 日本の実務 —— 「相続同意書」と「遺産分割協議書」、そして「遺留分」
用語と実務の立ち位置(かんたん)日本では実務で「相続同意書」と呼ぶ簡易な合意書を使う場面があります(銀行の払戻しや一時的処理など)。しかし不動産の登記や恒久的な所有権確定をする場面では、通常「遺産分割協議書」を作成し、相続人全員の押印(実印)と印鑑証明を添付するのが実務の中心です。法務局のガイドでも遺産分割協議書が前提である旨が示されています。
日本固有の「遺留分」制度日本の民法は一定の相続人に対して「遺留分(最低限の取り分)」を保障しており、遺言や当事者間合意であっても遺留分権利者の利益を完全に奪うことはできません。遺留分を侵害された相続人は、侵害額請求などの救済手段を持ちます。したがって、日本での「同意書」は遺留分の存在を踏まえた形で作る必要があります。
実務的な結論(日本向けアドバイス)銀行で葬儀費用を引き出す等の短期的処理は「相続同意書」で済むことがあるが、不動産の名義変更など恒久的な手続きは**遺産分割協議書(場合によっては公正証書化)**を準備するのが安全です。相続同意書を作る場合でも、対象財産を特定し、添付書類を揃え(戸籍・印鑑証明等)、「追記事項(後日発見財産があれば再協議する)」等を入れておくのが実務的に有効です。
5) 「相続人間の合意」を文書化する際の共通実務ルール(どの国でも役立つ注意点)
合意は「できるだけ具体的に」書く:対象財産の特定(銀行なら支店・口座番号、不動産なら地番、車なら車台番号)。
署名押印は必須:署名・押印(国によるが実印や公証が証拠力を高める)。
当事者の自由意思を確保:急かされて署名した場合や強迫・詐欺があると無効リスク。証拠(議事録・立会人・メール)を残す。
第三者提出要件を確認:銀行・登記所・役所ごとに受領要件が異なる。事前に窓口確認をする。
クロスボーダーでは「どの国法が適用されるか」を確認:EUのように規則で整理されている地域もあれば、米国のように州法差が大きい地域もある。国際遺産は“選択の余地”がある(例:Brussels IVのchoice of law)。
6) 具体的な実例(読者向け:もし自分が海外資産を持っている日本人なら)
フランスに別荘がある日本居住者:フランスのforced heirshipが適用される可能性があるため、フランスの相続法(あるいはEU規則での選択)を踏まえた遺言や合意の作り方が必要。現地弁護士・公証人のチェックを必須とする。
米国に不動産がある場合:その州でTODが使えるか、信託が適切かを確認。米国の相続手続(probate)は長期化することがあるため、事前の受益者指定や信託設計で回避する選択肢を検討。家族間の合意は「family settlement agreement」でまとめられることが多いが、州法差を確認。
英国資産がある場合:遺言の内容を受益者が事後に変えたいときはDeed of Variationが使える。税務的効果(IHT)もあるため、税務専門家と連携。
最後に:実務的チェックリスト(国際相続を扱うときの「最初の5つ」)
資産の所在国・種類を一覧化(銀行口座・不動産・会社株式など)。
各資産の「移転ルール」を確認(その国・州でTOD/POD/登記/信託が使えるか)。
当事者間の合意を作るときは「対象の特定」「署名・証人」「添付証拠(登記簿・通帳写し)」を確保。
クロスボーダーなら「どの国法が適用されるか(選べるか)」を確認(EU圏はReg.650/2012など)。
重大資産や複雑案件は現地弁護士+税理士の連携で進める(言葉・制度・税務が違う)。
15.電子署名・オンライン申請と「相続同意書」の今後
近年、日本でも行政手続きのデジタル化が進み、相続手続きにおいても「電子署名」や「オンライン申請」の導入が検討されています。特にマイナンバーカードを活用した電子署名が、相続同意書や遺産分割協議書に応用できるのか、またどの程度手続きの効率化が期待できるのかについて解説します。
マイナンバーカードを利用した電子署名の概要
マイナンバーカードには電子証明書が搭載されており、オンラインでの行政手続きや書類への電子署名が可能です。電子署名とは、紙の署名と同等の法的効力を持つことが認められたデジタル署名のことです。ポイントは以下の通りです。
本人確認が容易:署名者がマイナンバーカード所有者であることをシステム上で確認可能
改ざん防止:署名後の書類は電子的に改ざんされると検知可能
提出先の受け入れ:国や地方自治体が電子署名を認める場合に有効
相続同意書の場合、相続人全員が電子署名を行えば、紙の押印と同等に効力を持つことが理論上可能です。しかし、実務上は銀行や法務局など提出先によって電子署名の受理可否が異なります。
現状における電子署名の利用状況
現状では、以下の点に注意が必要です。
銀行の対応多くの金融機関は、相続手続きにおいて紙の署名・押印を原則としています。電子署名やオンライン申請に対応している銀行はまだ限定的で、今後の導入拡大が期待されています。
不動産登記の対応法務局では「登記申請のオンライン化」が進んでいます。登記申請自体は「登記・供託オンライン申請システム」を通じて可能ですが、相続同意書や遺産分割協議書は、現状では依然として紙の提出を求められるケースが多いです。ただし、今後は電子署名の活用が広がる可能性があります。
行政手続き相続関係では、市区町村での相続届や一部の証明書交付においてマイナポータルを活用した電子申請が可能になりつつあります。電子署名によって、わざわざ役所に出向かなくても相続人間で署名・提出が完結する仕組みが整いつつあります。
電子署名活用による相続手続きの効率化
電子署名を活用することで、相続手続きの効率化が期待されます。具体例を挙げると以下の通りです。
郵送や持参の手間削減相続人が全国に散らばっていても、オンラインで署名・合意を完結できるため、書類の郵送や直接集合の手間を省略可能です。
改ざんリスクの低減紙の書類では署名後に意図的・偶発的に改ざんされるリスクがありますが、電子署名を用いればデジタル上で改ざんが検知可能です。
保存・管理の簡便化電子署名付き書類はクラウド上で保存可能で、紛失リスクが低く、必要なときに迅速に参照できます。
電子署名活用における課題と注意点
一方で、電子署名導入には以下の課題があります。
提出先の対応状況現在、銀行や不動産登記においては紙書面の提出が依然として多く、電子署名書類が受理されない場合があります。
相続人間の合意形成電子署名であっても、署名者の自由意思が確認できることが重要です。強制や誤認による署名は無効リスクがあります。
法的整備の進行状況日本では電子署名法に基づく法的効力は認められていますが、相続に特化した運用基準や実務ガイドラインはまだ整備途上です。今後、銀行・法務局・自治体のガイドラインが整うことで利用が拡大する見込みです。
今後の展望
相続手続きのオンライン化が進むデジタル化の流れは不可逆であり、将来的には相続同意書や遺産分割協議書もオンラインで完結できるようになる可能性が高いです。
マイナンバーカードを活用した全国統一の電子署名制度マイナンバーカードでの署名が全国的に標準化されれば、相続手続きの利便性は大幅に向上します。
海外との比較における競争力米国のTODや英国のDeed of Variationのように、迅速かつ確実に文書で合意を形成できる仕組みを日本でも整備することで、海外資産を持つ相続にも対応可能です。
まとめ
電子署名・オンライン申請は、相続同意書における大きな効率化の鍵となります。ただし、現状では銀行や法務局の対応状況、署名の自由意思確認、法的整備の進行状況など、注意すべき点も多く存在します。将来的には、マイナンバーカードを活用した電子署名が標準化され、全国で安全かつ迅速に相続手続きを完結できる時代が来ることが期待されます。
契約書作成は弁護士・行政書士どっちに依頼すればいい?
契約書を作成する際、「弁護士と行政書士、どちらに依頼すればよいのか?」と悩む方は多いでしょう。どちらの専門家も契約書作成の業務を行いますが、その役割や対応範囲には違いがあります。本記事では、専門家に依頼するメリットや具体例を交えながら、どちらを選ぶべきかを解説します。
専門家に依頼するメリット
1. 契約のリスクを防げる
契約書には、当事者同士の合意内容が明確に記載されます。しかし、素人が作成すると、法律的に不備があったり、トラブルが発生したときに対応しきれなかったりするリスクがあります。専門家に依頼することで、契約の抜け漏れを防ぎ、将来的なトラブルを未然に防ぐことができます。
具体例
たとえば、フリーランスが企業と業務委託契約を結ぶ際、報酬の支払い期限や業務範囲の記載が不明確だと、後々「こんなはずじゃなかった」と揉める原因になります。専門家に依頼すれば、報酬の支払い遅延時のペナルティや、契約解除の条件など、重要な事項を適切に盛り込んだ契約書を作成できます。
2. 自社や個人に適した契約内容にできる
契約書の雛形(テンプレート)はインターネット上にもありますが、それをそのまま使うと、自社のビジネスモデルに合わなかったり、不要な条項が含まれていたりすることがあります。専門家は依頼者の事情をヒアリングし、最適な契約書を作成してくれます。
具体例
例えば、飲食店のオーナーがテナント契約を結ぶ際、一般的な賃貸借契約書だけでは、営業時間の制限や原状回復義務について十分にカバーされていないことがあります。専門家に相談すれば、こうした細かい点も考慮した契約書を作成でき、トラブルを未然に防げます。
行政書士と弁護士の違いは?
契約書作成を依頼できる専門家には、行政書士と弁護士の2種類があります。それぞれの違いを理解することで、自分に適した専門家を選びやすくなります。
行政書士:契約書作成の専門家
行政書士は、主に「契約書の作成」を専門とする国家資格者です。法律に基づいた正確な契約書を作成し、行政手続きや許認可申請にも対応できます。
具体例
・事業者間の業務委託契約書の作成 ・飲食店や美容サロンなどのテナント契約書の作成 ・売買契約書や合意書の作成
ただし、行政書士は「紛争が発生した場合の代理交渉」や「法廷での弁護」は行えません。トラブルが発生した際の対応まではできないため、契約内容に不安がある場合は、弁護士に相談する必要があります。
弁護士:法律トラブルに対応できる専門家
弁護士は、契約書の作成だけでなく、契約に関する紛争対応や訴訟の代理もできる法律の専門家です。トラブルが発生した際のリスクを考慮し、より強固な契約書を作成できます。
具体例
・企業間の買収、合併契約書の作成と交渉 ・高額な不動産売買契約の作成とリーガルチェック ・契約違反が起きた際の法的対応
弁護士に依頼すると、契約書の作成だけでなく、万が一の紛争時にも対応してもらえるというメリットがあります。ただし、弁護士の費用は行政書士より高額になることが一般的です。
専門家に依頼する際の費用と流れ
費用の相場
依頼する専門家や契約書の種類によって、費用は異なります。一般的な相場は以下のとおりです。
専門家 | 費用の目安 |
行政書士 | 契約書作成3万~10万円、リーガルチェック1万~3万 |
弁護士 | 契約書作成10万~30万円、紛争対応10万円以上 |
行政書士は比較的リーズナブルな価格で契約書を作成できますが、紛争対応はできません。一方、弁護士は費用が高めですが、契約のリスク管理を徹底できるというメリットがあります。
依頼の流れ
専門家を選ぶ:契約内容や将来的なリスクを考慮し、行政書士か弁護士のどちらに依頼するか決める。
相談・ヒアリング:依頼者の状況を詳しく聞き、契約書の目的や必要な条項を確認する。
契約書の作成・修正:専門家が契約書を作成し、依頼者と確認しながら修正を加える。
最終確認・納品:完成した契約書を納品し、必要に応じて公証役場での認証を行う。
具体例
たとえば、フリーランスが業務委託契約を結ぶ際、
行政書士に相談し、業務範囲や報酬条件をヒアリング。
契約書のドラフトを作成し、内容を確認。
必要に応じて修正し、最終版を納品。
依頼者が契約書に署名し、取引先と締結。
このような流れで進めるため、契約の重要性を理解しながら進めることができます。
まとめ
契約書作成を専門家に依頼することで、契約のリスクを防ぎ、スムーズな取引を実現できます。
行政書士は契約書の作成が得意で、費用を抑えられるが、紛争対応はできない。
弁護士は契約書作成に加えてトラブル対応も可能だが、費用は高め。
契約内容や想定リスクに応じて、適切な専門家を選びましょう。
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